テクノロジー

2024.04.16 18:45

GPUとAIサーバーで日本企業を支援 スーパー・マイクロとの提携の狙いとは

ここで強調したいのが、「経済安全保障(Economic security)」の重要性です。2023年11月以降、米国政府は中国への半導体輸出規制をいっそう明確化・強化し、とりわけGPUの輸出に関しては強力な規制を課しています。そこで、どのような座組で取り組むかはビジネス戦略上、各社にとって重要であることは論を俟たないでしょう。

GPU輸出に関しては厳格な「クオリフィケーション(資格・要件)」が設けられ、日本への輸出も例外ではなく、メーカー各社は、輸出先はもちろん、そのパートナーや顧客の信頼性も厳密に問われます。そのような資格や要件をクリアする戦略を構築する観点からも、GPU搭載型AIサーバー製造企業の一角を担うスーパー・マイクロの協力は不可欠なのです。

スーパー・マイクロ・コンピュータ共同創業者兼CEOのチャールズ・リャン Walid Berrazeg / SOPA Images / LightRocket / Getty Images

スーパー・マイクロ・コンピュータ共同創業者兼CEOのチャールズ・リャン Walid Berrazeg / SOPA Images / LightRocket / Getty Images

──米商務省は半導体輸出管理の基準を一部公開していますが、日本のGPU輸入先企業はもちろん、エンドユーザーたる顧客も同じ認識をもつ必要があるということですね。

石原:はい、「信頼ベクトル」を整えたかたちで日本にAI処理のキャパシティを持ち込む必要があります。そのユーザーに関しても現状、まだ国内にたくさんいるわけでもなく、また多くの利用者を抱えるAIモデルをもつ会社があるわけでもありません。
 
じつは、「日本にユーザーがいない」ことも大きな課題なのです。日本企業は設備投資をしたくても、補助金がなければ設備投資ができない状況に陥っています。ユーザーがいれば投資できるのに、ユーザーがいないために設備投資できない――。その結果、補助金に頼るほかないのが実状で、「鶏が先か、卵が先か」という因果性のジレンマが生じています。

だからこそ日本企業のみならず、グローバルなユーザーとも新たな戦略的パートナーシップを構築していく必要があると思っています。個別のユーザーに関しては、マイクロソフトやAWS(アマゾン ウェブ サービス)、OpenAIといった企業が日本での積極的な展開を表明しているので、グローバル企業と組むことは現実的かつ合理的です(編集部註:OpenAIは4月14日、東京にアジア初のオフィスを開設し、日本語に最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を始めると発表)。とはいえ、「経済安全保障」という全体戦略の観点から、日本にGPUを輸入し、AI処理のキャパシティを整えるのは喫緊の課題になっているのも事実です。

──近年、特に地政学的なリスクが高まっています。ユーザーがグローバルであっても、AIサーバーを国内に設置することは日本の経済安全保障上、有意義だということですね。

石原:大事ですね。海外ではミサイルやロボット、ドローンにAIを搭載するなど、AIの軍事利用が進んでいます。同様にサイバーセキュリティでも、AIを使った攻撃が急増しており、人間の処理能力を超えたレベルの攻撃に対してどう対応するか、あるいは逆にAIを使ってどう効率的にインシデント・レスポンス(サイバー攻撃への対応)をするか。さらには、AI自体に対するサイバーセキュリティ対策も大きな課題になってきます。

米国政府もGPUの輸出規制を敷きながら、軍事利用を見据えていますし、マイクロソフトやグーグルといったハイパースケーラーがグローバル戦略を打ち出しています。日本もオープンプラットフォーム型のAIインフラを構築しない限り、経済安全保障、そして経済戦略の点でも大幅な後れを取ってしまうことは否めません。「AIがある世界」と「AIがない世界」の経済競争では、途轍もないほどの差が開いてしまいます。その点に危機感を覚えている日本の経営者はたくさんいるのではないでしょうか。

文 = 井関庸介

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