アジア

2024.04.09 13:30

中国の「見せかけの経済対策」で危機はまだ続く

これらの対策が単なるジェスチャーに過ぎなければ、中国の指導部はまたしても不動産危機から目を背けていることになる。これは恥ずべきことだ。というのも、不動産問題は他の深刻な経済問題の根幹だからである。

不動産開発企業の経営破綻は金融に負荷をかけ、住宅販売・着工件数を落ち込ませただけでなく、不動産の価値も押し下げた。ほとんどの国民にとって不動産は主たる資産であるため、不動産価値の低下は家計資産を目減りさせた。その結果、消費マインドは悪化し、人々が消費を控える主な理由となっている。

中国の指導部は、このような経済の相互作用を認識し、上記のような小さなジェスチャー以上の政策を取るのではなく、単に矛先を転じた。両会の指導者たちは不動産危機や家計への圧迫をほとんど無視し、もっぱら製造業の強化について話した。

中国が「新たな飛躍」を遂げるのはこの分野だと彼らは主張した。「科学と教育」による「産業システムの近代化」について熱く語り、人工知能(AI)や新エネ車、水素燃料、バイオ製造、商業宇宙飛行、新素材、革新的な医薬品を強調した。

ビジネスや産業における近代化はいつでも素晴らしい考えだが、問題もある。ひとつは、この勇ましい取り組みに割り当てられたリソースが、大きな変化を生み出すには不十分ということだ。政府は近代化と養成に104億元(約2200億円)を振り向けたが、この額は18兆ドル(約2700兆円)の経済規模では微々たるものだ。

また、政府はこの少額の取り組み以上の具体的な策を示していない。それは李強首相の発言に表れている。公式訳によると、中国は「科学技術の革新によって産業革新を促す」という。これは無意味だ。事実上、中国は革新を起こすことによって革新を起こすと言っている。それは計画ではなく、堂々巡りする論理の輪だ。

また、政府が強調するこの新たな取り組みには、政府の唯一の主要な政策案で、ここ数十年にわたりお決まりの景気刺激策だったインフラ支出は登場していない。この計画では、地方政府がプロジェクト資金を調達するために3兆9000億元(83兆円)の地方債を発行し、さらに国がその他のプロジェクト資金を調達するために1兆元(21兆円)の国債を発行することになっている。

これまでのところ、政府は計画されているプロジェクトの具体的な内容を明らかにしていない。政府が資金調達のために「超長期」国債の発行を計画していることは、官僚らが早期の回収を期待していないことを示唆している。三峡ダム開発に匹敵する巨大プロジェクトの案も浮上している。三峡ダム開発は1990年代に始まり、全体的な運用は2015年に入ってからだった。

そして、新しい革新的な製造業がどこに行き着くのかという問題がある。政府は家計の問題や個人消費の落ち込みに全く対処していないため、この近代的で効率的な製造業が向かう唯一の先は輸出だろう。だがそこで中国は、米国、欧州、日本の企業が強化しつつあるサプライチェーンの脱中国化に直面することになる。また、日米欧は中国との貿易に警戒心を高めている。

このような疑問や未解決の問題があることから、中国は計画を熟慮することに失敗し、経済の各方面が互いに絡んでいること、そして中国のような強力な中央集権国家でさえ、ある分野を経済の他の部分と切り離して発展させることはできないことを認識していないように思われる。中国の経済・金融問題はまだしばらく続くことはほぼ確実だ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事