アート

2024.04.04

坂本龍一が受けた藝大の授業とは?「クリエイティヴ・アーカイヴ」を活用せよ

毛利嘉孝|東京藝術大学教授

過去の表現を新たな企画や作品制作に生かす。東京藝術大学では、これを意図的に循環させ、学外とも積極的につながる「クリエイティヴ・アーカイヴ」を実現しようとしている。その根底にある課題意識と可能性を聞いた。


美術館、博物館が多い上野の森。その奥に独特の存在感で佇むのが、東京藝術大学だ。1887年創立、日本で唯一の国立総合芸術大学は、どこか近寄り難い、秘密めいた雰囲気を発している。

入り口近くにある大学美術館では、卒業・修了生展のほか、大学が収蔵する作品や資料を一般に公開している。しかし、藝大にあるのは絵画、彫刻といった美術品だけではない。今や世界で活躍するアーティストが受けていた授業資料など、創作にまつわる “情報の破片”も重要な芸術資源の一例だ。

もっといえば、日々行われている東京藝大の教育そのものが、“秘伝のレシピ”ともいえる。これら大学が保有する有形無形の芸術資源を社会と共有し、利活用する。ただ保存するだけでなく、クリエイティヴに、未来に生かす。その旗振り役を担うのが、「未来創造継承センター」の毛利嘉孝センター長だ。

もともと藝大では、大学美術館、小泉文夫記念資料室など、美術学部、音楽学部それぞれで絵画や楽曲などを収蔵し、公開をしてきた。そのなかでも特に大学の歴史に関わる情報や資料、アーカイヴを統合し、創造のプロセスや制作環境を文脈ごと保存・継承することを目的に創設されたのが同センターとなる。そのホームページで毛利は、「『未来』のために『過去』を創造する」と語っている。

メディアと文化と政治の関係を専門とする社会学、文化研究の教授であり、保管の専門家“アーキビスト”ではない毛利を起用したのは、「芸術は未来に効く!」という合言葉を掲げる藝大の社会連携基盤「芸術未来研究場」を率いる日比野克彦学長。クリエイティヴ・アーカイヴは、その研究場が注力する5領域のひとつでもある。日比野自身も、作品だけでなく創作空間や思考プロセスの保管と活用に取り組み、「日比野克彦を保存する」プロジェクトを展開するなど、アーカイヴとクリエイティヴの実験を続けている。

坂本龍一が見た風景と聴いた音

「過去の集積より新たな創作に前のめりなのは藝大として自然なスタンス。でも、1980年代から芸術そのものが大きく変化し、ワークショップやフィールドワークなどの活動が増え、アウトプットのかたちもパフォーマンスやインスタレーションなどへ広がった。つくる過程に記録が包含されたり、消されることを前提としたグラフィティが注目されたり、過去の残し方も変えていかなければならない」
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文=鶴岡優子 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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