美術館、博物館が多い上野の森。その奥に独特の存在感で佇むのが、東京藝術大学だ。1887年創立、日本で唯一の国立総合芸術大学は、どこか近寄り難い、秘密めいた雰囲気を発している。
入り口近くにある大学美術館では、卒業・修了生展のほか、大学が収蔵する作品や資料を一般に公開している。しかし、藝大にあるのは絵画、彫刻といった美術品だけではない。今や世界で活躍するアーティストが受けていた授業資料など、創作にまつわる “情報の破片”も重要な芸術資源の一例だ。
もっといえば、日々行われている東京藝大の教育そのものが、“秘伝のレシピ”ともいえる。これら大学が保有する有形無形の芸術資源を社会と共有し、利活用する。ただ保存するだけでなく、クリエイティヴに、未来に生かす。その旗振り役を担うのが、「未来創造継承センター」の毛利嘉孝センター長だ。
もともと藝大では、大学美術館、小泉文夫記念資料室など、美術学部、音楽学部それぞれで絵画や楽曲などを収蔵し、公開をしてきた。そのなかでも特に大学の歴史に関わる情報や資料、アーカイヴを統合し、創造のプロセスや制作環境を文脈ごと保存・継承することを目的に創設されたのが同センターとなる。そのホームページで毛利は、「『未来』のために『過去』を創造する」と語っている。
メディアと文化と政治の関係を専門とする社会学、文化研究の教授であり、保管の専門家“アーキビスト”ではない毛利を起用したのは、「芸術は未来に効く!」という合言葉を掲げる藝大の社会連携基盤「芸術未来研究場」を率いる日比野克彦学長。クリエイティヴ・アーカイヴは、その研究場が注力する5領域のひとつでもある。日比野自身も、作品だけでなく創作空間や思考プロセスの保管と活用に取り組み、「日比野克彦を保存する」プロジェクトを展開するなど、アーカイヴとクリエイティヴの実験を続けている。