アート

2024.04.04 14:30

坂本龍一が受けた藝大の授業とは?「クリエイティヴ・アーカイヴ」を活用せよ

毛利嘉孝|東京藝術大学教授

昨年11月に開催された「芸術未来研究場展」では、坂本龍一が藝大生だったころに入り浸った小泉文夫の民族音楽学の授業の資料、作曲科1年生の時の課題曲を展示。坂本が見て聴いて、影響を受けた“情報の破片”を文脈化した展示を、現在音楽家1年生で、同じ課題曲に向き合う学生が体験していた。
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毛利は、「クリエイティヴ・アーカイヴを循環させるには、過去の再文脈化と、適切な出口が重要。保管した時点で時が止まるのではなく、現在の芸術環境や社会情勢によって過去の見方は変化する。新しい観点で藝大に眠る過去資源の掘り起こし、文脈化する専門人材も増やしたい」と意気込む。今後は坂本のような卒業生という人軸、時代軸で編集し、企画展や、アーカイヴを活用した授業をしていくという。

藝大の特異性をビジネスの突破口に

藝大の教授の多くが同大卒という環境で、そうではない毛利は、外からの視点で「藝大という生態系そのものが宝」とその価値を捉えている。同時に、「『最後の秘境 東京藝大』という本が売れましたが、秘境は秘境のままでは意味がない」と危機感ももつ。

スティーブ・ジョブズに代表にされるクリエイティヴな経営、思考法が重視されて久しいが、藝大を卒業して一般企業に就職する人は少ない。作家に必要な孤高は、企業人に必要な協調性との同居が難しい。しかし、モノを効率よくつくればいい時代が終わった今、藝大生の観察眼、発想力、複雑なものを一枚絵にする力は、ビジネスで羨望されている。

また、クリエイティヴ・アーカイヴの考え方や手法は、企業にも応用ができるという。一般的に企業のアーカイヴというと、社史の編纂が中心だ。しかし、そこに眠る財産をとらえ直せば、創造の種になるかもしれない。見せ方においても、年表や文書でなく、絵で見せたり、演劇にしたり、あるいは参加型のワークショップなどで企業の歴史を再解釈することは、未来の構想を紡ぎ出すことにつながるだろう。
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加えて毛利は、過去・現在・未来といった時間軸の掘り起こしだけでなく、自治体、NPOなどと横軸の連携を目指す。「いい意味で純粋培養ができている藝大の環境は、可能性の宝庫。今まで藝大とは縁が遠い、美術や音楽と関係ないと思われていた分野やテーマとの出会いにこそ、共創でイノベーションが起こりうる。クリエイティヴ・アーカイヴを循環させ、芸術で社会に貢献していきたい」


毛利嘉孝◎社会学者。専門はメディア/文化研究。東京藝術大学・大学院国際芸術創造研究科教授、音楽学部音楽環境創造科教授、未来創造継承センター長。現代美術や音楽、メディアなど現代文化と都市空間の編成や社会運動を主に研究テーマとしている。ポートレートは、小泉文夫記念資料室にて撮影。

文=鶴岡優子 写真=若原瑞昌

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