ヘルスケア

2024.03.30 14:00

ブタからヒトへの腎臓移植を実現した米スタートアップ、心臓と肝臓に挑戦

マサチューセッツ総合病院でブタの腎臓が移植された患者は62歳の男性で、以前に移植された腎臓は機能しなくなっていた。手術は、米食品医薬品局(FDA)の「拡大アクセス」プログラムの下で進められることが許可された。同プログラムでは重篤な状態にある患者が実験的な医薬品や治療法を利用できる。今回の手術の前には、脳死者とブタの腎臓での数種類の実験と、生きている患者への遺伝子操作されたブタの心臓の移植2件が行われた。

米ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の移植専門の外科医で、今回の手術には関与していないジャミール・アジは手術を賞賛した。「何十年もかけて到達したすばらしい進歩だ」とフォーブスに語った。とはいえ、この種の手術が患者にとって珍しくないものになるまでにはもっと多くのデータが必要だとアジは釘を刺した。

重要なのは、移植されたブタの腎臓が患者の体内でどれくらいもつかだ。「もし2、3カ月でダメになるのであれば、まだまだということになる」とアジは指摘した。2023年に米バイオテック企業ユナイテッド・セラピューティクスの子会社Revivicorが遺伝子操作したブタの心臓の移植を受けた患者2人は術後数週間で死亡した。ただしなぜ死に至ったのかは明確になっていない。

動物から人間への異種移植の最大の課題の1つは、移植を受ける患者の体が動物の臓器を完全に拒絶しないようにすることだ。拒絶反応は従来の腎臓移植ですでに問題となっている。懐疑的な見方をする人たちは、ブタとヒトの間には多くの違いがあるため、ブタの臓器のヒトへの移植は不可能だろうと主張してきた。

そこで遺伝子改変となる。マサチューセッツ総合病院で行われた手術では、ドナーとなったブタの腎臓に7つの異なるヒトの遺伝子を組み入れ、3つのブタの遺伝子を除去し、59のDNAを追加する必要があったとカーティスは説明した。こうした改変により、患者の免疫システムで拒絶反応が起きるほど移植された腎臓が攻撃されることはなくなるが、ヒトの臓器を移植した場合と同様に免疫抑制剤が必要となる。

これらの遺伝子改変はブタの細胞1個に施された。その細胞は胚に組み込まれ、クローン胚を作製。そのクローン胚を母ブタに移植して、遺伝子が変化した子ブタが生まれた。
次ページ > 生きている患者への一時しのぎではない完全移植を目指す

翻訳=溝口慈子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事