起業家

2024.03.24 13:30

世界でも特異な傾向か「日本のフィランソロピー」起業家たちが起こす新局面とその可能性

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1990年代後半から2000年代にかけて起業されたITベンチャー世代でも、起業家による慈善財団が次々に立ち上がってきた。クリエイターの才能を育む「クマ財団」、貧困家庭や子育て負担を支援する「みてね基金」、女性の理系進学を推進する「山田進太郎D&I財団」、非営利スタートアップへアクセラレーションプログラムを提供する「Soil」。発起人となった各氏はそれぞれ、コロプラ、MIXI、メルカリ、Speeeのファウンダーだ。

2023年12月にSoilとForbes JAPANが発表したSoil / Forbes JAPAN基金では、PKSHA Technology、Chatwork、リブセンス、frankyの経営者も参画。まだ数は多くないものの、こうした30〜40代の経営者の動きによって、日本のフィランソロピーは新たな局面を迎えつつある。

かくいう筆者の私も、そうした流れをくむひとりである。11年に会社をIPO(新規株式公開)し、寄付を続けてきた。最近は「新しい贈与論」というコミュニティを運営し、寄付者同士のコミュニケーションの場をつくっている。

現在の日本で興りつつあるこの潮流は何を意味するのか。その先にはどんな社会が見えてくるのか。海外の事例も踏まえながら考えていきたい。

これまでの日本のフィランソロピー

日本の企業や起業家による財団設立の動き自体は、決して目新しいものではない。上の世代から脈々と続いている。

日本は寄付の少ない国だといわれることが多く、実際に国際的な調査でも、寄付をする人の割合は142カ国中125位と低迷している。それでも成功した企業やその創業者は、それなりに財団を設立してきた。トヨタ自動車、サントリー、ブリヂストン、京セラ、イトーヨーカ堂、テルモ、武田薬品工業等々。高度経済成長期から近年に至るまで、数多くの財団が立ち上がっている。

日本の財団に特徴的なのは、なぜか「教育」と「芸術振興」を扱うものが多いことだ。特に自国向けの奨学金支援を行っている財団が圧倒的に多い。米『Forbes』が調査した日本長者番付2023のトップ5人のうち、なんと4人が奨学金財団をもっている。

生まれついての経済的不平等を和らげ、教育機会の平等を目指す。それが奨学金の望む理想だろう。家庭の事情でお金がなくとも勉強したい。そういう若者たちを救う手立てとして、奨学金がある。日本中の小学校に立っている二宮金次郎の像は、勤勉な経済困窮者のシンボルだったとも言える。

当時の大学進学率の低さなど時代背景も影響していたのかもしれないが、それだけでは説明できない。慈善活動として教育を好む傾向は、現代の若い世代でも変わっていないからだ。

franky・アドバイザーであり連続起業家の西川順が若手富裕層の社会貢献について調査した論文では、「事業や家族のため以外に、どのような社会貢献であればお金を出してもいいですか?」というアンケートに対し、ダントツで「教育」という回答が集まった。次いで「アート」ときて、このふたつが回答のほとんどになる。昔も今も、その志向性は変わらない。

私も経営者のひとりだから、教育や奨学金が好まれる理由は想像がつく。例えば、採用、人材育成に頭を悩ませている経営者は「優秀な人」を育てることが重要な使命だと感じていること。国の将来の経済競争力を高める必要があると考えていること。経営者は、機会の平等を重視しがちだということ。交友関係の経済水準が高いがゆえに、社会課題に触れる機会が少ないこと。成功した経営者に高学歴者が多いことも、ひとつの要因かもしれない。
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文=桂 大介

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