プラントハンター×リユースが生む未来の地球のための「新しい循環」

嵜本曰く、現在の世界の高級品市場は約45兆円、そのリユース市場規模は4~5兆円。つまり、「単純計算すると残りの約40兆円は世界中のクローゼットに眠っているか、廃棄されている」ことになる。こうした手付かずのブランド品が増えることは、もちろん、バリュエンスのような企業にとってはビジネスチャンスにもなるが、「それって本当に自分たちのあるべき姿なのかと、ようやく考えられるようになりました」と嵜本は言う。

「私たちは、15年ほど前、ブランド品のリユース事業が面白いと思ったところから始まった企業で、最初から環境問題に向き合ってきたわけではありません。ただ自分たちがやっていることが、地球のためにもなれば、これほど素晴らしいことはない。そう考え直して、2022年、『Circular Design for the Earth and Us』というパーパスを掲げました」

一方、花卉園芸業界の日本における市場規模は約1兆円。数字だけを比較すれば社会に与える影響は小さいが、ファッション業界と同じく地球へ負荷をかけていることには変わりない。

例えば人工芝は、国内水域における流出マイクロプラスティックの原因の15~20%を占める。天然芝はといえば、1㎡を育てるのには、300ℓの水が必要になる。カーボンニュートラルを掲げてオフィスの壁面や室内の緑化を進める企業が、こうした事実を知らずにやみくもに取り組んでいるケースも少なくない。

これまでリユース、リサイクルがされていなかった花卉園芸業界で、そら植物園がバリュエンスと組んでビジネスを展開するとなれば、「売れた花木に枯れてもらわないと、新しい植物が必要とされなくなる」という否定的な意見が上がることもあるだろう。しかし、10年後、20年後には誰かが取り組まなければならない課題を、今自分たちが始めるだけのことだと西畠は意気込む。
そら植物園とグループ企業の 「office N seijun」が手がけた 植物リサイクルの実績のひとつ。 沖縄の民家で不要となった植 物は、2023年8月にオープンした千葉の「BOTANICAL POOL CLUB」へ植栽されたことで、命を吹き返した。

(写真左:Before 右:After)そら植物園とグループ企業の 「office N seijun」が手がけた植物リサイクルの実績のひとつ。 沖縄の民家で不要となった植物は、2023年8月にオープンした千葉の「BOTANICAL POOL CLUB」へ植栽されたことで、命を吹き返した。


「植物は、存在した場所やかかわった人の記憶をつなぐ役割も担っています。数値化できるものだけでなく、そうした情緒的なところまで目を向けるのが、自分ができるESG経営のかたちだと思っています。そして、サーキュラーデザインをパーパスに掲げるバリュエンスに、花や木という“有機物”が加われば、面白いことが起こるとも思っています。植物やファッションアイテムが誰かの思い出や土地の文化を後世につないでいきながら、地球に優しく還元していく。花や植木、時計や宝石などあらゆるものが集まって、ひとつの新しい生態系ができることをイメージしています」

これは僕が勝手に言っているだけなんですけど「ミッションは、『社会に有機的な循環を』かな」と西畠が口にすると、嵜本は頷いた。ふたりには、協業の先に明るい未来が見えているようだ。

西畠清順◎世界各国を旅して植物を収集し、王族貴族から企業、行政機関などに届けるプラントハンター。その活動は年間200トンを超える植物の国際取引の他、生産卸、造園、環境デザイン/コンサル、街づくり/森づくり、講演/執筆など多岐にわたる。

嵜本晋輔◎2001年にJリーグのガンバ大阪に入団するが、2003年に戦力外通告を受け退団。22歳でサッカー界から引退。2011年SOU(現 バリュエンスホールディングス)を設立。2018年、設立から7年で東証マザーズ市場に上場。

文=守屋美佳 写真=山田大輔

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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