映画

2024.03.09 14:30

フェミニズムか反フェミニズムか。映画「バービー」に埋め込まれた爆弾

現実世界の描写はやや過剰にフェミニズム視点

定番バービーは、ある時自らの身体の”劣化”=老いを感知し、それを阻止するため、ケンと共にそもそもの原因が生じている現実世界への旅に出る。目を引く美人でナイスバディな彼女はさっそく男たちの性的視線に晒され、現実世界はいまだ男性中心世界であることを思い知らされる。

マテル社もCEO以下完全なホモソーシャル(実際の同社では女性管理職がいる)で、CEOの台詞には現行のポリティカル・コレクトネスからはみ出す”本音”が見え隠れする。街でケンに質問された男性は「(差別を)僕らはうまく隠してる」と嘯く。そんな中、定番バービーの元持ち主であるマテル社勤務のグロリアは、仕事のプレッシャーや娘サーシャとの関係など悩みを抱え、ウツ気味になっている。

現実世界の描写は明らかに、と言うよりやや過剰にフェミニズム視点だが、フェミニズムに目覚めたばかりらしいサーシャを小生意気な理屈を並べ立てる現代っ子として描くところなどで、スパイスを効かせている。

一方、現実世界で男性が尊重されていることに感動したケンは、バービーランドに帰り、マッチョな男だけの「ケンダム」をつくろうとケンたちで結束。結果、バービーたちは男にかしづく役割にすっかりハマってしまい、立場は逆転する。

グロリア、サーシャ母子とバービーランドに帰った定番バービーは、変わり果てたバービーたちの”惨状”を嘆き、彼女たちの洗脳を解いて、バービーの権力奪還のためケンたちにハニートラップを仕掛ける反撃に出る。

この一連のバービーたちの単純さや愚かさ、横暴な振る舞い、あるいはグロリアの、典型的なフェミニズム言説を放つ様子がヒステリック気味に描かれていることをもって、「反フェミニズム」だとする意見があるようだ。

しかしバービーランド(女性優位社会)が現実社会(男性優位社会)を反転させたつくりになっている以上、そこにどんな歪みや不公平や不実が描かれていても、それは現実の歪みや不公平や不実の裏返しに過ぎないという見方ができてしまう。そうした仕掛けがあちこちに周到なまでに張り巡らされているこの作品を、「フェミニズムか反フェミニズムか」で議論することは虚しいと言えるだろう。
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文=大野左紀子

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