旅客機の乗客・乗員379人は3箇所からシューターで全員脱出に成功したものの、海保機は5人が死亡、機長が重傷を負った。運輸安全委員会の航空事故調査団は、両機のボイスレコーダーとフライトレコーダーを回収し、検証作業を行なっている。
海外では自機の位置を周囲の他機に信号発信で知らせる装置の搭載が義務付けられているが、日本ではそれが立ち遅れているという。従ってあらゆる場所でこれだけ自動化、デジタル化が進んでいても、航空機離発着時の決定は、管制官と操縦士のやりとりや視認というアナログ手段に頼らざるを得ない。
もちろんさまざまな安全システムを講じても、事故が完全に防げるとは限らない。惨事を回避するのは最終的に、人間の集中力や判断力ということになるだろう。
米国では2009年1月15日、ニューヨーク発シアトル行きのエアバス航空機が、離陸後まもなくバードストライクによって両エンジンの推進力を失いハドソン川に不時着水するという出来事があった。乗客とクルー155人は全員救助された。この事件は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、的確な判断と高度な操縦技術によって人命を守った機長チェズレイ・サレンバーガーに賞賛の声が集まった。
これをクリント・イーストウッド監督が映画化したのが 『Sally』(サリーは機長の愛称)、邦題は『ハドソン川の奇跡』(2016)である。
2つの見どころ
単なるパニックものではない良質な旅客機事故映画となっている本作の見どころはまず、再現性の高さだろう。撮影に当たってイーストウッドは、事件をリアルに再現するために本物のエアバス機を購入し、いち早く救出に向かった通勤フェリーや沿岸警備隊を始めとする人々やレポーターなど、当時の関係者を多数出演させている。
次に注目すべき点はドラマ構成である。事故の救援が終わった後の機長サリー(トム・ハンクス)を取り巻く状況を映画の前半部と後半部に分けて描き、中盤にサリーの回想というかたちでフライト当日の詳細な模様が挿入される形式になっている。
事故の報道直後から一気に”時の人”となった一方で、自分の下した判断の是非をめぐって強い心労に囚われている機長の姿をまず描き、次にドラマの山として実際にあった出来事を観客に追体験させる。その後、サリーの判断が正しかったと改めて証明される国家安全運輸委員会の公聴会の場面で締めて、前半の不安や謎を回収するという、ミステリー的な構成をとっているのだ。