映画

2024.03.09 14:30

フェミニズムか反フェミニズムか。映画「バービー」に埋め込まれた爆弾

田中友梨
ついで舞台は架空のバービーランドに移り、ポップでガーリーなピンクを基調とした色彩の中で主人公である定番バービー(マーゴット・ロビー)が生活する様子が描かれる。

バービーランドではバービー人形に託された少女たちの夢が最大限に実現されており、定番バービーの他に大統領、医師、売れっ子作家から道路工事の作業員まで、あらゆるバービーがあらゆる職業に就いている。人種も白人オンリーではない。

その背景には、バービーを製造しているマテル社の方針が反映されている。マテル社は1959年に最初のバービー(定番バービー)を発売しヒットするが、2015年から「You Can Be Anything(何にだってなれる)」というメッセージを届ける「ロールモデルプログラム」を開始し、多種多様なバービーを送り出してきた。

従ってバービーランドには「全員が何にでもなれるし、輝ける」という強烈な自己肯定感が、いささか鬱陶しいまでにこだまし合っている。が、それぞれの家を持ち自己実現しているのはバービーだけで、ケン(ライアン・ゴズリング)には”ビーチにいる”という役割しか与えられておらず、彼はモヤモヤを抱えている。

また、バービーランドには死と性が存在しない。老いることと生殖活動が徹底的に忌避され、妊娠バービーは「売れなかった」としてクローズアップされず、元の持ち主に乱暴に扱われた変テコバービーは町外れに住むなど、隅々まで強烈なルッキズムが支配している。

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これらはバービーを通して形成された少女たちの幼い世界観の反映であり、「何にだってなれる」というそれ自体は、少女へ勇気を与える夢の孕む歪みが示されていると言える。

こうしたバービーランドの一連の場面を通して、まず単純なレベルで親フェミニズム的作品ではないことははっきりと読み取れるだろう。

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文=大野左紀子

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