経営・戦略

2024.03.06 15:30

苦戦するスタートアップを救え!3代目経営者の目算と「リスク許容度」

マニパル・エデュケーション・アンド・メディカル・ グループ(MEMG)のランジャン・パイ会長(Aniruddha Chowdhury / Mint / Getty Images)

マニパル・エデュケーション・アンド・メディカル・ グループ(MEMG)のランジャン・パイ会長(Aniruddha Chowdhury / Mint / Getty Images)

ファミリーオフィスを通じて積極的にスタートアップに投資する、インドの教育・医療系企業トップの考えを独占インタビューで聞いた。


スタートアップの経営に困難はつきものだ。アイデアは秀逸でも資金難や販路で行き詰まる。事業内容が挑戦的であればあるほど、伴うリスクも高い。インド最大級の病院チェーン経営者が、そうした起業家たちを支援しようとしている。

ランジャン・パイ(50)は今年4月、自身の率いるマニパル・エデュケーション・アンド・メディカル・グループ(MEMG)の基幹ヘルスケア企業であるマニパル・ヘルス・エンタープライジズの22%の持ち株を、シンガポールの国営投資会社テマセク・ホールディングスに売却し、約10億ドルの現金を得た。

グループの会長であり、14億ドルに相当する30%の持ち分を依然として維持するパイは、今回の動きについて、自分が50歳になる前に同グループの負債をゼロにしたいという思いがあったと語る。

パイは、4億ドル近くかけてグループのバランスシートをきれいにし、この臨時収入の残りを使おうとしている。新たに設立したファミリーオフィスのクレイポンド・キャピタルとオルタナティブ投資ファンドを通じて3億ドル以上をインドと海外のスタートアップに投じ、さらに3億ドルをヘルスケア、教育、保険、幹細胞研究分野といった従来からの事業用に用意している。

「投資の自由がずっと欲しかったのです」パイは、ベンガルール(旧バンガロール)のJWマリオット・ホテルの上にあるオフィスで行われた独占インタビューで、そう語った。

インドでは、パイの例にとどまらず、ファミリーオフィスが先を争ってスタートアップに投資するというのが大きなトレンドになっている。そんななかで、長年にわたり起業家に出資してきたパイは、あるニッチを見いだしている。投資家が離れ、企業評価額が下がり、問題を抱えたスタートアップに資金を提供しているのだ。

「そういう企業は、創業者が判断を誤ったのかもしれないし、外的環境が悪化したのかもしれない。ポイントは、彼らに“信頼性をもたらす資本”を提供できないか、ということです」

チェンナイのデータ分析提供会社のベンチャー・インテリジェンスによると、インドのスタートアップ企業に対する2023年1〜6月の未公開株投資やベンチャー投資は、前年比66%減の162億ドル。事業を成長させるための資金を求めるレイターステージ(成長後期)の企業にとっては、特に厳しい環境だ。

ベンガルールのデータ分析会社トラクションによれば、シードステージやアーリーステージ(成長初期)企業への出資も鈍化しているものの、最大の打撃を受けているのはレイターステージにある企業で、23年上半期の投資取引件数はインド全体でも前年の137件から36件に減少した。

「パイのような人が、長期資本をもたらし軌道修正してくれるということは、スタートアップ・エコシステムへの大きな貢献になります」

ベンチャー・インテリジェンスの創業者、アルン・ナタラジャンはそう指摘する。「彼ほど資金が潤沢で、熱心に未公開企業への投資に力を入れている投資家は思い当たりません」

パイ自身も、資金調達の経験はある。一族のヘルスケアと教育事業を成長させるため、06年に未公開株を活用し始めて以来、海外とインド国内の両方の投資家から400億ルピーを調達してきた。

その影響もあってグループは、パイ一族の意思決定に基づく経営から、所有と経営が切り離された経営に移行した。投資家が資金回収時に高額のリターンを得るようになると、パイは未公開株の世界で引っ張りだこになった。同グループによると、06年以降のリターンは年率換算で約20%。パイは10年前にビリオネアの仲間入りを果たしている。
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文=アヌラダ・ラグナサン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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