経営・戦略

2024.03.06 15:30

苦戦するスタートアップを救え!3代目経営者の目算と「リスク許容度」

マニパル・エデュケーション・アンド・メディカル・ グループ(MEMG)のランジャン・パイ会長(Aniruddha Chowdhury / Mint / Getty Images)

一族のレガシーにしたがって

父親のラムダス・パイが1991年に設立した病院チェーンの取締役のひとりにランジャン・パイが就任してから、20年以上がたつ。父親がベンガルールでリースした600床の病院から始めたマニパル・ヘルスだが、息子であるランジャンは病院の買収や新設を通じて、それをインド19都市に29病院8300床を擁するチェーンに拡大した。
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2023年度の収益は480億ルピー(5億7900万ドル)に達した。常に狙い通りに成長してきたわけではないとパイは言う。それでも21年には米国の病院チェーン、コロンビア・アジアのインド部門を210億ルピーで獲得することに成功。新たに12病院1300床をポートフォリオに加え、その後間もなく、ヴィクラム病院を35億ルピーで買収しており、さらに200床を追加した。

大きな転換点となったのは、パイが23年4月にマニパル・ヘルスの22%の持ち株をテマセクに売却したことだ。この時の病院チェーンの評価額は50億ドル。パイの持ち分は30%に減り、テマセクは合計20億ドルを支払うことで59%を保有する支配株主となった。同社はそれ以前に、傘下のヘルスケアプラットフォームのシアーズを通じて得た18%と、米プライベートエクイティ大手TPGから買い取った19%をすでに保有しており、そこにパイから買い取った株式を加えたかたちだ。

パイは、ヘルスケアから手を引こうとしているとしているわけではないと説明する。彼の保有資産額はこの取引を経て倍増し、推定28億ドルになった。
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「確かに、一部の資金は引き上げました。ですが、これ以上の持ち分は売却しません。それに、私の持ち分を維持するための投資も続けます」

この取引のおかげでパイは、自身の注意と軍資金を23年初めに立ち上げたファミリーオフィス、クレイポンド・キャピタルに向けられるようになった。オルタナティブ投資ファンドを通じ、パイはインドの成長後期のスタートアップへの“信頼性をもたらす資本”の提供に注力していくという。

8月には、インド企業ファーストクライに25億ルピーを投資。妊婦と子ども用製品ではアジア最大規模のオンラインショップをうたう企業だ。また7月には、窮地に陥った医薬品オンライン販売企業ファームイージーに100億ルピーの投資を約束した。

また、パイは16年に設立した既存のファミリーオフィスを通じた投資も行っており、高齢者向けサービス会社などスタートアップ20社に35億ルピーを投資してきた。

これらとは別に、パイは創業11年になるアーリン・キャピタルを通じて約1億ドルを50社近いスタートアップにも投資。こちらは、IT大手のインフォシスの元最高財務責任者(CFO)モハンダス・パイ(親族ではない)と組んで経営する投資会社だ。

同社は、さまざまな業界のテック関連事業に資金を提供しており、投資先には特殊バイオ医薬品会社バイオーム・セラピューティクスや、ブランド化されたビジネスホテルチェーンのファブホテルズなどがある。MEMGのラジェシュ・モールティCFOによると、MEMGとアーリン・キャピタルの内部収益率は、合わせて20%を超えるという。

とはいえ、パイが出資してきたスタートアップのうちの数社は、この業界の高い倒産率にたがわず、つぶれている。前出のトラクションによると、昨年は2400社以上のインドのスタートアップが廃業しており、その数は1年前の2倍以上だという。

「私のリスク許容度は非常に高いのです。良いことなのか、悪いことなのかはわかりませんが」(パイ)
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文=アヌラダ・ラグナサン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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