アジア

2024.02.29 13:15

韓国で「医療戦争」が勃発 政府の医学部増員に医師たちが大反発

日本と同じように国民皆保険制度を取り入れ、国民の医療負担は減ったはずだが、実際は地方に住んでいると医師不足によりきちんとした医療サービスを受けられない場合が多くなっている。

韓国政府は、高齢化やコロナ禍、地方忌避問題による医師不足を打開する目的で、「必須医療政策パッケージ」を打ち出した。その内訳は「医療人材の拡充」「地域医療の強化」「医療事故のセーフティネット」「公正補償」という4大改革課題である。必須医療とは、救急、外傷、感染、分娩など、国民の生命と直結する分野の医療サービスである。

2月6日、保健福祉部(部は日本の省に当たる)は、「必須医療政策パッケージ」の一環として、医科大学の定員を2025年から年間2000人増員すると発表した。これは最近になって生まれた政策ではない。2020年にも「10年間で医学部の定員を400人拡大する」という政策を発表したが、医師たちの猛烈な反対に合い無期延期となった経緯がある。

当時、専攻医らは大学病院を辞職し、医科大学の大学生たちは医師免許を取得するための国家試験を拒否した。政府は根負けして試験を拒否した医大生たちを救済するための追加試験を行った。

前政権が打ち出した「10年間で400人増員」でもかなり反発があったので、一過性の発表で終わるのかと思いきや、現政権は徹底して押し通す様相である。ちなみに、医科大学の定員は、2006年から19年間、3058名で固定されている。

今回もすでに各大学病院の専攻医らは、2月20日に集団で辞職願を提出するという強硬手段に出た。主要専攻医のストライキが継続しており「病院で医師が不足しており、患者たちが診療を当てもなく待っていた」「救急施設の前で段ボールを敷いて点滴を打っている患者」「手術の延期」などの報道が見られる。

専攻医だけでなく、大学生や医師たちも「医科大学増員反対」の集会を開き、強硬な姿勢をとっている。

医師たちが医科大学増員を反対する理由

では、なぜ医療界は「大学増員」に反対しているのか。まず、韓国は少子化により人口が減少しているので、医師数は十分だと考えられている。医師数が増えると、過剰診療になり、健康保険の財政負担が増える。

また増員されたからといって、医師になった人たちが、地方へ行くとは限らないため、依然として地方では医師数が不足する。しかも医療教育の臨床教育や実習など、現場のインフラも増員に耐えられない。

しかし、何よりの問題は「必須医療政策パッケージ」以外の方策にもある。ここには、給付と非給付の混合診療の制限や一般医の開院制限など、医師たちの収益構造に手を加える方策が含まれている。
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文=アン・ヨンヒ

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