起業家

2024.02.29 09:00

「休眠資産」運用で起業 順調な会社員キャリアから転身を決めた理由|LUCA Japan CEO シデナム慶子

「女性の自分にはできない」という感覚を払拭したい

──女性起業家は増えてきているとはいえ、日本は女性にとって起業しやすい環境とは言いづらいかもしれません。起業するうえで難しいと感じたことはありますか?

起業して一番驚いたのは、どこに行っても男性しかいなかったことですね。起業家だけでなく、投資家や取締役などのステークホルダーが男性ばかりだったことに圧倒されました。昔でいう「ボーイズクラブ」のような感じで、飲み会など気持ちを通じ合わせる場面において、共通項の少ない女性が入り込んでいく難しさはあるかもしれません。

ただ異なる立場にあるからこそ発信できることはあると思います。女性は働くうえで「I’m not good enough.(自分に十分な能力が備わっていない)」という感覚に陥りやすい。女性起業家の資金調達が難しいという金融庁のデータも出ていますし、リーダーシップを発揮できる場がこれまで整備されてこなかったことは、女性起業家の少なさにも関係していると思います。

ビジネスをするうえで、異なる視点を多く持つことがプラスにはたらくことは大いにあります。ジェンダーだけではなく、多様なバックグラウンドを持つ人たちと働くことがこのような状況を変えていくうえで重要です。

起業環境を整えるには現場の声を

──ここ数年、政策面において日本の起業家をとりまく環境は少しずつ改善されてきています。今後、国や支援機関に期待することはありますか?

起業家やユニコーンを増やしたいという理由から、シリコンバレー方式などの海外の様式を輸入する方法がよく見られます。ただ大枠の方向性が合っていても、取り組みの細則が日本社会にフィットしていないがゆえに、制度をうまく活用できていない。外国から取り入れた枠組みの細部に絡むギャップを埋めるために、日本の現場課題にどこまで寄り添えるかという点には改善の余地があるように思います。

枠組みを作って思考停止するのではなく、実践に向けて現状を見極めるための議論を経て、本当に使える制度にしていく。そのためにスタートアップや起業家の意見をどう意思決定プロセスに乗せていくのか、という点が今後の課題ではないでしょうか。

──起業家として大事にされている価値観を教えてください。

当たり前のことかもしれませんが、品質にこだわることを大切にしています。これは会社経営以外にも言えることですが、品質を極めるということは、自分のなかの本質を追求することだと思います。

世界水準で見ると、日本では投資家に対する優良な資産形成の手法や選択肢は限られています。日本でも最良の資産運用の機会を提供したい、という起業の理由も、自分に一貫する価値観です。

──起業してから直面した課題と、それをどう乗り越えたかについて教えてください。

起業後のチャレンジは「思った通りには何も進まない」ことですね。プロダクト開発も、ビジネス展開にしても何もかも予想通りには進みません。経営者は判断を迫られるタイミングがとにかく多いので、判断力を鍛えることが重要だと学びました。顧客や投資家など、幅広い方からの意見を聞くことも重要ですが、もらった意見と異なる判断を下さなければいけない場合もある。現状を見極めると同時に、自分が貫きたい、自分自身の意見に意識的であることが大切です。

──2023年11月にプレシリーズAラウンドの資金調達を発表されました。今後の展望について聞かせてください。



現在は投資家を募集する15社のパートナー企業がLUCAのオンラインプラットフォームを活用しています。また、株主の金融機関が持つ多様なチャネルと連携しながら運用商品を展開していくための準備を進めています。

これまではIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)などを通じてLUCA Japanが提供するファンドの情報展開を進めていました。いまは資産家の方から直接の問い合わせも増えているので、資産規模が5億円を超える方同士で資産運用や事業継承などについて学び合えるコミュニティを作っていきたいですね。

文=Plug and Play Japan 編集=露原直人

ForbesBrandVoice

人気記事