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2024.01.22

ラクスル創業者「最後の挑戦」DAY1グローバルで狙う世界の課題解決

松本恭攝|ラクスル/ジョーシス

2023年8月にラクスルの社長を退任した松本恭攝。意思決定の背景、そして新事業ジョーシスに専念する真意とは。


松本恭攝は10月の時点ですでに2023年は15回、海外に飛んでいた。シンガポールとアメリカに6回、インドに2回、ドバイに1回。社長を務めるグループ会社ジョーシスの拠点が各地にあるからだ。

今やネットで簡単に国境を越えられる時代だ。なぜ頻繁に現地に飛ぶのか。直前までドバイにいたせいか、松本は日焼けした顔でこう答えた。

「今も日本にいる時間のほうが長いですよ。ただ、国内で日本人と会っていると、どうしても日本のことを考えてしまう。グローバルでやるには海外に身を置いてノンジャパニーズと話したほうがいい」

ジョーシスの事業に専念するため、松本がラクスルの社長を退任したのは23年8月だった。現在も取締役会長としてハイレベルの経営にタッチしているものの、執行にはかかわっていない。

ラクスルは上場後も成長を続け、近年はダンボールワン、ペライチ、ネットスクウェア、AmidAホールディングスと立て続けにM&Aや出資を進めるなど、新たなステージに突入している。経営者として腕が鳴るはずだが、なぜ退任を決めたのか。

背景にあったのは、SaaS管理プラットフォームであるジョーシス事業の成長だ。コロナ禍でリモートワークが普及するにつれて、世界のSaaS管理市場は急拡大。ジョーシスは後発だが、22年9月にシリーズAで44億円、23年9月にシリーズBで135億円の資金調達を行い、「資金調達規模では世界トップ3」(松本)と、一気に業界で注目を集める存在になった。

「資本を入れる目的は事業のアクセラレート。ジョーシスはDAY1からグローバルを目指して、日本とインドで立ち上げ後、シンガポールとアメリカで採用をスタートしました。資金調達してそれぞれの地域で採用を拡大し、クォーターごとにビジネスが1.5~2倍に成長するなかで、売り上げ400億円規模の上場会社とハイグロースのスタートアップを同時にマネジメントすることが体力的にもマインドシェア的にも難しくなってきた。そこでジョーシスに専念する決断をしました」

二者択一を迫られたとしても、引き続き祖業のかじを取る道はあった。ジョーシスを選んだのは、自分の適性を考えた結果だった。

「私はM&Aを活用した事業成長より、シングルの事業を立ち上げて伸ばすほうが得意。一方、CFOの永見(世央・現ラクスルCEO)はPEファンドの出身で、ポートフォリオ経営で全体の財務をコントロールすることに長けていました。ラクスルの今後の戦略を考えると、バトンは永見に渡したほうがいい。今年1月にそう話したところ、永見のほうも同じことを考えていた」
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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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