同社は「オルタナティブ投資の民主化」を掲げ、複雑な投資プロセスをワンストップで完結できるデジタルプラットフォームを運営。プライベート・エクイティや不動産、プライベート・クレジットといった、数億円単位の出資が必要なファンドに、中小の機関投資家や個人投資家が小口で出資できるサービスだ。
最近ではプレシリーズAで4億円を調達し、新たに大手フィナンシャル・グループや地方金融機関との協業に取り組んでおり、今年2月には富裕層向けのファンド提供を開始した。また、資産運用についてともに学び、情報交換も行えるLUCAファミリーオフィスコミュニティを発足。1月には完全招待制の第一回イベントを実施し、富裕層個人の金融知識向上や人的交流の場を提供している。
外資系金融でキャリアを積み、資産形成の多様化に取り組むシデナムさんに話を聞いた。
・インタビュアー Plug and Play Japan Head of Ventures馬静前
コンサルティングや証券会社を経て、2021年からPlug and Play Japanの投資部門に参画、日本のスタートアップ投資業務全般を統括。
資産運用の思想のギャップを埋めようと起業
──大手外資系投資ファンドから起業家へと転身されたきっかけについて教えてください。私はニューヨークでキャリアを開始しましたが、シングルマザーとして子育てをしながら仕事をするという状況でもありました。日本に帰国して、常にオフィスで仕事をすることが求められたり、長時間残業など、働き方が硬直的であるというのは、小さな子どもを抱える自分には難しい環境であったなと思います。外資系では、海外時間(日本では深夜)でも十分仕事ができたり、実力が評価されやすい点で働きやすいように感じました。
次第にチームのマネジメントを任されたりするようにもなり、会社員としてのキャリアは順調で満足していました。一方で、オルタナティブ投資(上場株や債券といった従来の資産以外の新しい投資対象)の専門家として日本の投資家と外資系の運用会社との関係構築を任されたときに、日本と海外における「資産運用」に対する思想のギャップはまだまだ大きいなと感じていました。
一部の機関投資家レベルでは、グローバル水準の「長期視点」の投資が進められている一方、個人や個人資金を扱う資産運用業界にはその観点が必ずしも根付いていないと感じました。投資家の資産規模に連動する手数料ではなく売買手数料ベースのビジネスモデルはまさにそれを顕著に表しています。
日本では個人資産として眠っているお金が多く、それを動かしていくことが、個人資産の価値を向上させ、ひいては社会のキャピタル・エコシステムの構築につながっていきます。そのためには資本に対する柔軟な考えを持つことが重要ですが、日本ではまだ資産形成の多様化が進んでいません。このような格差を埋めたい。それくらい大きなことをするには、一つの運用会社の会社員以上の何かにならなくては業界にはたらきかけることができない、と感じて起業を決意しました。