「胚も子ども」米アラバマ州の最高裁判断、着床前診断にも懸念

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米ボストン在住のマット・ゴールドスタインと妻マイラ・サックは、2021年に第一子のハヴィを致死性遺伝性疾患のテイ・サックス病で亡くした。ハヴィの病気が判明したときサックが身ごもっていた第二子も、同じ病気のキャリアだった。

現在1歳半になる第三子エズラの妊娠にあたり、夫妻は受精卵の着床前遺伝子診断(PGT)と体外受精(IVF)を利用して、わが子が病気にかかるリスクを減らす選択をした。だが、今月16日に米アラバマ州最高裁判所が「胚も子どもとみなす」判断を下したことで、2人のような親が予防的な選択肢をとれなくなる懸念が浮上している。

アラバマ州最高裁は、体外受精による受精卵を凍結保存した「凍結胚」を「子ども」とみなし、出生後の生きている子どもと同じ権利を持つと認定した。これは、凍結胚に致命的な遺伝性疾患が見つかった場合や、親が今後の妊娠を望まなかったり凍結胚の保管費用を払えなくなったりした場合でも、胚を廃棄できなくなる可能性があることを意味する。

この司法判断を受けて、州内では複数のクリニックが「患者家族、臨床医、クリニックに対する法的な影響への理解が進むまで」不妊治療を一時中止する事態となった。

ゴールドスタインとサックは、2018年9月のハヴィ誕生をとても喜び、かわいい子どもの両親としての新生活を楽しんでいた。ところが、ハヴィが1歳の誕生日を迎えたころ、成長に遅れがみられることに気づく。夫妻は子どもを神経科医に診せ、理学療法と作業療法を受けさせたが、ハヴィは次第に運動能力を失っていった。座っていても姿勢を保てず、前かがみになってしまうようになった。

そして神経遺伝学の専門医の診察を受けたところ、過剰な驚愕反射が確認され、生後1年3カ月でハヴィはテイ・サックス病と診断された。治療法がなく、完治することもなく、3~5歳までに死亡する致命的な遺伝性疾患だ。病気の原因となる遺伝子変異を両親から1つずつ、計2つ受け継ぐことで発症する。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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