気候変動で、人間の着床率低下の可能性

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「人口経済学ジャーナル(Journal of Population Economics)」に2022年に掲載された研究論文で、気候変動によって人間の着床率が低下する可能性が示唆されている。

しかしその原因は、セックスの回数が減ることではない。また、必ずしも、生まれてくる新生児の数が減ることを意味するわけでもない。むしろ、人間の生殖能力が低下することとともに、計画外の妊娠が減少することになるかもしれない。

この研究論文の共著者であるハンガリーのタマス・ハイドゥー(Tamás Hajdu)とガボール・ハイドゥー(Gábor Hajdu)は、気温のランダムな変化を利用して、熱波が着床率に及ぼす影響について検証した。このとき、こうした熱波の遅延効果も含めて検討をおこなった。

この研究における着床数とは、次の3つのデータに基づいてカウントされている。無事に生まれた新生児の数、人工妊娠中絶の数、そして、臨床的に確認された胎児死亡数(すなわち流産数)だ。

この研究はハンガリーのデータを使っているので、この結果がどこにでも当てはまるわけではない、と著者たちは注意を促している。とはいえ、ハンガリーは欧州にある近代国家であり、気候も欧州の多くの地域や米国の一部と変わらないため、この研究結果は重要な意味を持つ可能性がある。

著者らはまず、気候変動による地球の温暖化によって、着床率が全体的に低下すると予測している。そう聞いて、「暖炉のそばでパートナーといい感じになりたいような寒い冬の夜」が少なくなるからだと想像する人もいるだろう。しかし著者らは、先行研究によると、気温と性行為は関係しないと指摘している。

むしろ、暑さは精子の質を低下させ、精子の形成を減少させる傾向があり、女性の生殖にも影響を与える可能性がある。つまり、暑さが生殖能力を低下させ、妊娠の確率を全体的に低下させる傾向があると考えられる。

この研究では、高温が続いた時期の後に着床率が低下することが観察されている。一方で、妊娠時期がシフトする、つまり、涼しい時期に着床率が上がる可能性も観察されている。この結果、将来は、季節ごとの着床数の差が大きくなる可能性があるという。

言い換えると、熱波後の最初の5週間は着床率が低下する一方で、熱波から6~25週後には、妊娠から無事に出産したケースの数は上昇していることがわかった。妊娠を希望している人にとっては、過剰な暑さが続くと、妊娠時期が少し遅れることになるのかもしれない。

ただし、この「リバウンド」効果は、人工妊娠中絶や流産では見られなかった。これはなぜだろうか? 著者らは、中絶された胎児は、後日の妊娠で「埋め合わせ」されることはない、なぜならそうした妊娠の多くは意図しないものだからだ、と推測している。同様に、胎児の死亡は無計画な妊娠で起こりやすいため、リバウンド効果を必ずしも期待できないのだろう。

全体として、このデータは驚くようなことを示している。着床数が減るとともに、中絶や流産の数は減るが、無事に生まれてくる新生児の数は減らない。つまり、温暖化で気温が高くなると、着床率は下がるが、生まれてくる新生児の数は必ずしも少なくなるわけではない、ということだ。少なくとも、この話はデータと一致している。

気候変動は多くの悪影響をもたらすが、人間の生殖能力の低下もその一つだろう。さらに、気温の上昇は、胎児の発育に影響を与える可能性があり、これについてはより慎重な研究が必要だ。一方で、地球温暖化の意図しない結果として、計画外妊娠が減少する可能性がある。

決して良いニュースばかりではないが、悪いことばかりでもない。人生の多くの事柄がそうであるように、我々はしばしば、良いことと悪いことの両方を受け入れざるを得ないのだ。

forbes.com 原文

翻訳=藤原聡美/ガリレオ

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