ヘルスケア

2024.02.26 13:00

「胚も子ども」米アラバマ州の最高裁判断、着床前診断にも懸念

ゴールドスタインとサックの間に生まれる子どもは、25%の確率でテイ・サックス病になる。ハヴィがテイ・サックス病と診断されたとき、サックは第二子を妊娠して11週目だった。3週間後に受けた絨毛検査で、胎児はテイ・サックス病の遺伝子変異を1つだけ持っており、病気のキャリアだが、発症はしないだろうことがわかった。

その間にもハヴィの病状は進行し、2021年1月に亡くなった。まだ2歳だった

夫妻は、テイ・サックス病ではない第三子を授かりたいと考え、体外受精を選択した。サックの卵子を針で採取し、ゴールドスタインの精子と受精させて試験管の中で胚を作るという侵襲的で、高額な費用がかかり、時に痛みをともない、精神的にも時間的にも負担となるプロセスだ。

夫妻の胚はテイ・サックス病の検査を受け、うち2つには遺伝子変異がないことが確認された。サックはこのうち1つの胚を子宮に移植し、2021年に息子エズラを妊娠した。

医学博士でもあるゴールドスタインは、体外受精・着床前診断の恩恵を強く感じ、生殖・がん遺伝子検査を手頃な価格で提供するエモリー大学医学部の非営利団体JScreenの最高経営責任者(CEO)に就任した。

テイ・サックス病のような遺伝性疾患のリスクを抱えるカップルにとって、アラバマ州最高裁の判断を受けて体外受精・着床前診断の選択肢がなくなれば、次善の選択は妊娠中に遺伝子検査を受け、胎児に致死的な疾患が見つかったら州外で妊娠中絶の措置を受けることになりかねない。皮肉なことに今回の司法判断は、それがなければ生じなかったであろう中絶につながる可能性があるのだ。

妊娠中絶を合衆国憲法の保障する権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」が連邦最高裁で覆されたことによって引き起こされた、明らかに意図しない結果は、これが初めてではない。妊娠していない女性が、クローン病、全身性エリテマトーデス(ループス)、関節リウマチなどの重篤な病状の治療薬を受け取れない事態が生じている。

アラバマ州上下両院では、体外受精を「保護」する「明確」な法案の起草を超党派で計画している。今回の司法判断が、女性たちやリプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)、他州の法律にどのような波紋を広げるのか、それを見極めるには数カ月~数年を要するだろう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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