多くの人たちが「母なる地球」(Mother Earth)を救うことについて話しているが、(気候変動対策は)私たち自身を救うためのものだと私は考えている。気候変動は人道的危機でもある。なぜなら、私たちは多くの面で自然や生態系サービスに依存しているからだ。
私たちが20年1月に公表したリポートでは、世界の総GDPの半分以上に相当する経済的価値の創出が生態系サービスに依存しているという結果を示した。地球上の資源がなければ私たちは社会を築くことができない。間接的なものを含めれば、その依存度は100%になるだろう。
私たちは今、地球が資源を維持できる量をはるかに超えて消費している。子どもたちや未来の子孫から借金をしている状態なのだ。だが科学や知識、技術革新を通じて新たな消費や生産方法、社会や都市の新たな形を見つけることができれば、私たちは借金を止めるだけでなくより良い未来への道筋も描くことができるだろう。
──アジアは世界のCO2排出量の約6割を占めるとされています。アジアの脱炭素を推進するうえで、日本に期待することはありますか。
日本は常に革新的な技術で知られてきた。実際、日本の再生可能エネルギー関連の国際特許出願の総数は世界トップだ。これは食品製造など他分野にも広がる可能性がある。技術面での貢献という点で日本が果たす役割は大きい。
とはいえ時間的余裕はあまりない。今こそリーダーシップが求められるときだ。どうすればイノベーションを起こすことができるのか。どのようにシステム思考を統合するのか。リーダーシップを通じてインスピレーションを与えることで世界中の力を動員できる。
リーダーシップは希望と可能性への楽観主義を鼓舞するためにも必要だ。気候に関するデータを見ても明らかだが、私たち全員が今、前例のない問題に対処しなければならない現実を目の当たりにしている。
現実を認識することは大切だ。しかしそれ以上に重要なのは、私たち自身が作り出した危機に対処できるという自信と楽観的な感覚を持つことだ。日本企業はより迅速に、自分たちが持つソリューションやアイデアをより多くの人々に知ってもらい、より多くのパートナーシップを築いていく必要がある。
──気候変動関連で注目しているテクノロジーや分野があれば教えてください。
ひとつは材料科学(マテリアルサイエンス)だ。材料科学の力で廃棄物を4割削減できれば、人類はひとつの地球のなかで生きていくことができる。その可能性は大いにあるだろう。(地球のデータを収集・分析する)アーステックにもとても興味がある。
また、「適応」についてもっと真剣に考える必要がある。今日、人々はすでに気象パターンの変化や洪水、山火事、干ばつなどに対処している。自然災害への対処であれ、自然災害からの回復であれ、サプライチェーンの安全確保であれ、レジリエンスを構築するために地域社会を適応させる必要がある。世界経済フォーラムとしては、プレーヤー間のより迅速な情報交換を可能にする点で重要な役割を果たすことができると考えている。