アジア

2024.02.18

時価総額1000兆円消失すらかすむ、中国から届いた「最悪のニュース」

GAlexS/Shutterstock.com

3年間で7兆ドル(約1050兆円)もの時価総額が失われた中国の株価暴落について、エコノミストたちはその途方もなさをどう説明したものやら頭を悩ませている。中国の株式市場は2021年以降、日本とフランスの国内総生産(GDP)の合計に匹敵する時価総額を失ったと言えば、規模の大きさが最もよく伝わるだろうか。

とはいえ、アジア最大の経済大国から伝わってきた最悪のニュースは、他にある。中国のデフレが過去数十年で最速のペースで進んでいるという話ではない。大手不動産会社の中国恒大集団に香港で清算命令が出されたという件でもない。最悪のニュースは、まさに中国に関する「悪いニュース」に対して、中国の習近平指導部が戦いを本格化させたらしいことだ。

報道によれば、中国の主要な情報機関である国家安全省は最近、中国経済や市場の見通しに関して批判的な見解を広める者を見張っていると明らかにした。「虚偽の言説」によって「中国経済をおとしめる」言動をするな、という背筋の寒くなるような警告は、アダム・スミスに始まる近代経済理論とはかけ離れた毛沢東的な発想だ。そしてこれは、中国の影響力が高まるなかで非常に厄介な問題を引き起こしている。

国家安全省は「経済宣伝と世論誘導を強化する」と公言した。だが、本当に気がかりな問題は、具体的にどのような行為が取り締まりの対象になるのかという、発表文の「行間」に隠された部分だ。

ブルームバーグ通信は1月、米金融大手のシティグループが中国本土を訪れるプライベートバンカーたちに、人民元やその為替ヘッジ戦略について話さないよう指示していると報じた。また、習主席の強い意向を受けた香港政府は先ごろ「国家安全条例」の制定手続きを開始すると発表した。香港の憲法にあたる香港基本法23条に基づくこの法令は、中国共産党が20年前から香港に押し付けようとしてきたものである。

あいまいな条文の国家安全条例は、かつて「アジアのロンドン」と呼ばれた香港で、中国本土と同様に、政府が国家にとって危険とみなした情報を統制するのが狙いだ。香港の法令としては、2019年に起きた大規模抗議行動を受けて翌20年に施行された香港国家安全維持法(国安法)を補完するものになる。

国家安全条例の原案では、「国家に対する反逆」「反乱」「スパイ行為」「国家の安全に危害を加える破壊活動「外国勢力による干渉」の5つの犯罪を取り締まるとしている。だが、どのような行為が各犯罪に問われるのかははっきりせず、外資系投資銀行や報道機関、コンサルティング会社、インターネットプラットフォームの関係者からすれば腹立たしいほどだ。

たとえば、中国経済は苦境にあると確信しているエコノミストは、中国国内で発表するリポートやスピーチでそれに言及しても大丈夫なのか。中国本土の企業が帳簿をごまかしていると判断できる場合、当局の事情聴取を受ける危険を冒さず投資家に警告するにはどうすればいいか。あるいは、中国本土の不動産開発会社が近くデフォルト(債務不履行)に陥りそうだと感じたストラテジストは、その懸念を公の場で表明してよいものだろうか。

外国の報道機関の場合も同様だ。所属する記者が、中国の地方政府の債務リスクは知られている以上に悪いという内容の記事を執筆した場合、それを配信してよいのか。記者がマディ・ウォーターズのような空売り投資会社を取材したら、国家安全省の手入れを受けることになるのか。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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