経営者は「リジェネレーティブな発想」を。食の革命家が語った未来へのアクション

高倉が勤めたロート製薬は、「世の中を健康にするためにチャレンジし続ける」ことを掲げ、90年代から社員の挑戦を支援する副業などのマルチジョブ制度の導入など、新しい働き方を推進する社内風土改革、人材育成を進めてきた。その先導役である山田邦雄会長も「スローフード革命」に魅了されたひとりだ。山田は、ウォータースの来日時に、彼女の食育の活動から始まった東京都・日本橋茅場町の屋上菜園「Edible KAYABAEN」を訪れて彼女と対談した。

山田:
「食べることは生きること」という本の副題に感銘しました。ロート製薬は医療業界の会社で、もちろん薬は病気になったときに必要ですが、病気にならないほうがもっと大切で、特に子どもの時にどういうものを食べるかで一生の健康が決まると考えています。日本の今の食は豊かな面とすごく貧しい面があり、そこを何とか会社として豊かにしていきたい。さらに、自分で野菜を育てて自然や地域とのかかわり方、そして生き方を学んだ子どもたちが育つことで次の社会をつくるリーダーになってくれると、日本はもっと良くなると思います。

ウォータース:本当にそう思います。

山田:今の産業構造を今日、急には変えられないんだけれども、サステナブルな方向にちょっとずつ企業も変わっていくべきだし、そういう希望や道を早く次の世代の子どもたちに示していきたいですね。

ウォータース:産業を一日で変えるのは難しいと言いますが、国連やIPCCが言っているように、2030年まで私たちに残された時間はわずかです。気候変動について本当に真剣に考えて、あと7年でできることを急がないといけません。これは緊急事態宣言のようなものです。今、全員が動き出す、そういった大きなアクションも必要です。世界は正しい道を進めていると思います。エディブル・スクールヤードでの経験はもちろんレストランを52年間やってきた結果、ほかのたくさんの料理人が私たちのやり方を見て変わっていったんです。

山田:私たちもできることからすぐに変えていきたい。多くの会社が今はSDGsと言っていますが、まだまだ本物ではない。私たちはもっと「土」に行かないといけない。

リジェネレーティブをいかに広めるか

ウォータース:リジェネレーティブ(環境再生型)の農業で食べ物をつくること、そしてそれを本気で支援することが大切だと思います。その場の現場だけではなくて、大きなビジョンで考えながら、リジェネレーティブの発想を食だけじゃなくもっと広げてほしい。ぜひ山田さんがその道を見せてください。

山田:そうですね。やはりそういうふうに環境と食の循環が回っていないと、人間は本当の意味で健康にもハッピーにもなれないと思います。実は本社に70年ほどになる大変きれいな広い庭があるんです。でも、まだ畑をつくっていない。一部を畑にしていきたいですね。


Alice Waters◎1944年生まれ。オーガニックレストラン「シェ・パニース」のオーナー、シェフ。1996年にシェ・パニース財団を設立し、エディブル・スクールヤード・プログラムを始めた。

やまだ・くにお◎1956年、大阪府生まれ。80年ロート製薬入社。96年副社長を経て99年社長に就任。2009年会長就任。

文=成相通子 写真=野川かさね

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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