9割ものサプライヤーから1次情報を得て、自社製品のCO2排出量の可視化を実現。鍵は自分ごと化。ステークホルダーを巻き込むユニ・チャーム式で一歩先を行く。
96ページにおよぶユニ・チャームの統合レポート。価値創造プロセス、重点戦略、ESG情報などの財務・非財務情報について具体例をふんだんに交えながら紹介している。レポート内容は、Scrumと呼ばれる社内のチーム単位で、一言一句音読し、国内外の社員に浸透させた。
生理用品や紙パンツなどの衛生用品大手ユニ・チャームは、売り上げも海外が6割を超えるグローバル企業だ。脱炭素経営にも早くから取り組んできた同社は、2020年にESG本部を設立した。
本部長を務める上田健次(当時は経営企画部長)はこう振り返る。「環境や社会に関する目標が分散していて、中期経営計画のような全社の目標として認識されているものがなかったんです。みんなが一丸となって取り組める目標が必要だと、社長の高原(豪久)に改革提案を出しました。最初は私がやるとは思っていなかったんですが、課題意識を持つ私がやらないといけないと強く思いました」。
同社のESG目標の特徴は、社内外の投票で設定している点だ。中長期ESG目標「Kyo-sey Life Vision 2030」は20年10月に策定。部署が設立されてわずか10カ月で、周囲に「不可能」と言われながらも全員参加の号令のもと「突貫」でつくった。短期間で、513項目の課題抽出を行い44項目に整理。国内だけでなく海外の約900のScrum、ステークホルダー56団体にまでヒアリングを実施。社員全員が当事者意識をもって、20の重要取り組みテーマを設定した。
気候変動対策としては、国債的なイニシアチブであるSBTのCO2排出量削減目標として、2030年までに製造時(Scope1)と使用済み商品廃棄処理時(Scope2)のそれぞれ90%、30%削減を目指すと明記。
さらに、大きな比率を占めるものの、把握が難しい購入した資材のCO2排出量(Scope3)の排出量削減にも力を入れている。サプライヤーの協力を得て、9割以上の一次情報を取得。自社で最終製品の排出量を可視化できる仕組みを構築した。国や他企業との情報交換を通じて、業界全体の底上げも図る。
「目標を設定して、試算をして可視化し、対策が打てるようになった段階です。今後は取り組みの情報発信を通じて、商品のカーボンフットプリントの表示を含めて消費者の理解も得ていきたい。すべての意味での資源循環をみんなで志をひとつにして進めていきたいと考えています」(上田)
上田健次◎1991年、ユニ・チャーム入社。営業部門で10年間活動した後、コーポレート・スタッフ部門で経営企画職として20年以上従事。経営企画部長などを経て、2020年1月にESG本部長代理、2022年1月より現職。