アクセシビリティは誰にとっても必要なもの
同館は、「未来館アクセシビリティラボ」による研究開発を中心に、五感を活用した展示体験の提供のほか、外部研究室と連携した新技術の実証実験などミュージアムにおけるアクセシビリティの向上を推し進めている。来る4月には、障害者差別解消法の施行によって、すべての事業者に障害者への合理的配慮の提供が義務化される(現在の努力義務から義務へ)。今後アクセシビリティというキーワードは、さらに注目されていくであろう。
Miraikan Accessibility Lab. すべての人が楽しめるミュージアムをめざして
そんな中、老いパークでは、アクセシビリティ対応において、言語、目線の高さ、情報を得る知覚の違いという3つのポイントで体験展示を設計している。
どんな特性を持つ誰であっても楽しめるよう、試作機を視覚障害者、車椅子ユーザー、子どもや日本語を第一言語としない人など様々な当事者に体験してもらい、フィードバックを受けて改良を重ねた。構想から完成までには約2年の時間を費やしたという。体験展示には字幕やナレーションは当然のこと、高さを子どもや車椅子ユーザーにも見やすく調整、一部展示には視覚障害者も体験できるモードを用意している。
展示パネルの文字は、どの目線の高さでも読める大きさ、配置になっている。テキストはすべて日本語・英語・中国語の3言語併記だ。
既存のプリントシール機を利活用して作った「笑って怒ってハイチーズ!」は、車椅子でも問題なく使用できるように筐体のサイズを拡張し、カメラに高さ調整機能を加える工夫がされた。
短期記憶、注意力、処理速度の低下という脳の老化を体験する「おつかいマスターズ」。車椅子などが近づきやすいように展示台の下部に奥行を作るなど、特に改良を重ねた展示だ。
「とても嬉しかったのは、視覚障害者が体験できるモードがない展示であっても楽しめたという当事者からの感想です。いただいた意見をもとに、字幕や音量調整などの改良を加えました。来館された方々のフィードバックから、今後もアップデートしていきます」
「自分ごと」から広がる他者への想像力
「老いパーク」という響きのインパクトも相まって、メディアの掲載数は同館の従来リリースより多く、来館者からもポジティブな反応を得られている。驚くのは、朝早くから並んで観にくる高齢者がよく見受けられるという点だ。企画前調査によって当初設定していたメインターゲットは、老いについて自覚し始める40〜60代だった。
「老いって誰にとっても身近なものなのに、これまで学ぶ機会や語る機会があまりなかったと思います。若い世代の方々は、自分の家族や身近な他者への想像力を膨らませてくれているようです。それに対して高齢者の方々は、自分の現状を科学的に捉えたい、今抱えている困りごとの解決のための選択肢を学びたいと来館されています。紹介している対処法について、積極的な質問もいただきます」
老いパークは、ある人にとっては未来、ある人にとっては現在なのだ。