リーダーシップ

2024.02.10 13:30

独占!『EQ2.0』著者からの提言。リーダーシップとは「説得の芸術」である

──あらためてEQとは何か。また、なぜそれが重要なのか。

ブラッドベリー:EQは実際には、脳の理性的な部分と感情的な部分の相互作用だ。何かが起こると私たちの脳はまず、感情的に反応を示すように配線されている。感情が湧き起こるのを止めることはできない。重要なのは、感情について理性的に考え始めたとき、どう扱うのかということだ。その過程、つまり自分の感情を反すうする時間を取り、自分が望む行動を生み出すために感情を利用すること、それがEQだ。
 
著書のなかでは1840年代に米国バーモント州で鉄道建築の現場監督をしていたフィネアス・ゲージの話を紹介している。彼は、岩盤を爆破する作業の際に仕掛けたダイナマイトによって長さ109cm、太さ3cm、重さ6kgの鉄の棒が下顎から頭に貫通し、左眼窩前頭皮質と呼ばれる部分が損壊した。物事を合理的に考えたり、感情について理性的に考えたりする場所だ。事故後、彼は驚異的な回復力で職場に復帰するも、有能で礼儀正しく、落ち着きがあり、親しみやすく、部下や仲間からも慕われていた以前の彼ではなく、気まぐれで非礼で下品で、仲間に敬意を示さなかった。優柔不断で、将来の作業プランも決めることができなかった。彼は当然ながらその職を失うことになるが、私が著書でこの話をしたのは、EQの具体的な根拠を示すためだ。私たちがどう考えるかという点でのある種の物理的な真実であり、最大限に活用しなければならない能力なのだ。
 
一方IQは「何を知っているか」ではなく、情報を吸収するスピードであり、いかに早く情報を保持できるかという能力だ。5歳から50歳までのIQを追ったリサーチでは、この能力は生涯にわたって安定していることがわかった。IQを生み出す脳の領域があまり可塑的ではなく、変化しにくいからだ。パーソナリティも同様で、人が世界にアプローチするための安定した嗜好や傾向の集合だ。EQはこのふたつとは異なる。神経学者は、「脳の可塑領域」と呼ぶが、可鍛性があり、変化に敏感だ。

EQは組織の文化をつくる

──リーダーシップについては、「説得の芸術である」と述べています。

ブラッドベリー:リーダーシップとは、肩書や権威、年齢ではない。共通の目標に向かって人々を動機づけできるかどうか、だ。つまり人々をやる気にさせ、共に偉大なことを成し遂げるリーダーになるために、いかにEQを使うのか、ということだ。多くのリーダーに共通するのは豊富な経験だと思うが、それだけではほぼ同等のスキルセットをもっている他社やライバルと差をつけることはできない。人物を際立たせるのは、他者との接し方、感情的知性、困難な状況、対立、気難しい人への対応だ。自分自身の行動を通じて組織内に感情的なトーンを設定し、それが組織の上から下へと伝わっていく。新しい行動、より感情的に知的な行動を、人々が目指すべき規範や標準とすることで、組織の文化をつくることができる。これが私の研究を通じて見つけたスキルセットだ。
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インタビュー、構成=岩坪文子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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