経営・戦略

2024.02.07 13:30

キミには地図を描く力があるか?応募殺到「CEOの門」の審査基準

「有言実行」が人を惹きつける

経営者の発掘・育成プログラムの審査で重視するもうひとつのポイントが、本人のキャラクターである。

「リーダーには人を巻き込む魅力が必要です。魅力のあり方は個性の話なので、多様性があっていい。実際、最近は昔の起業家みたいに熱く夢を語るタイプから、冷静な分析ができるスマートなタイプまで、いろんな人がいます。まあ、そう言いつつも、私はいまだに熱いやつを応援したくなりますが(笑)」

宇野が応援した起業家としてよく名前があがる人物のひとりが、サイバーエージェントの藤田晋である。藤田は新卒でインテリジェンスに入社して、1年後に起業。宇野は創業資金700万円を支援した。

藤田はどちらかといえば静かな語り口で、”熱いやつ”に見えない。どこに応援したくなる魅力があったのか。

「暑苦しく語るタイプではなかったですが、誰よりも早く会社にきて営業に行き、一番の成績をあげていて、行動と結果で秘めた思いを表現していましたね。信念が強くて、頑固といえば頑固。『起業はいいけど、1年で辞めるのは早すぎないか』と引き留めたら、ああ『宇野さんもリクルートコスモスを1年で辞めましたよね』と言い返されました(笑)」

では、宇野本人のキャラクターはどうだろうか。宇野も語り口が穏やかで、いわゆる熱血漢に見えない。ただ、旧USENを継いだときのエピソードからは芯の強さがうかがえる。

病床の父は、息子を呼び寄せるにあたり、「今の経営幹部は俺が切る。自分の会社から好きなやつを連れてこい」と条件を出した。しかし、それでは社員に信頼されない。「ダメな幹部がいたら自分の責任で切る」と答え、単身で乗り込んだ。

継いだ後も苦難は続く。生前、父は電柱に無断でケーブルを張り巡らせて有線放送網を築き、有罪判決を受けた後も放置を続けていた。後を継いだ宇野は、「社員が誇りをもてる会社にする」と宣言して、違法状態の解消に真っ先に取り組んだ。

調査した電柱は720万本。一本一本ケーブル撤去の手続きをしたが、役所に書類を突き返されたり、週刊誌にウソを書かれたりした。血のついたわら人形が宇野の自宅に送りつけられたこともある。社内には「本当に正常化できるのか」と不安なムードが漂い、宇野自身も決意が揺らぐことがあったという。

「でも、迷いは社員に見せず、2年がかりで何とかやり切った。そこでやっと『こいつは有言実行だ』と、ひとりのリーダーとして認めてもらえたような気がします」

地図を描く力と、人を惹きつける人間力。リーダーに求められる素養として、宇野はこのふたつを強調した。

実はインタービューしたのは未来塾の卒業式当日。次世代のリーダーを目指す塾生らに、最後にどんな言葉を贈るのか。そう尋ねると、宇野は笑ってこう答えた。

「大切なことはしつこく話したので、もうメッセージは伝わっていると思う。それより式の後のパーティでビンゴをやるんです。景品は私の私物。何をあげようかと、さっきから頭がいっぱいで(笑)」

キックオフの未来テストには、余興にとどまらない深い意味があった。ビンゴで何が景品になるにせよ、受け取った社員はそこに余興以上の意味を見いだすに違いない。


うの・やすひで◎USEN-NEXT HOLDINGS 代表取締役社長CEO。1963年生まれ。88年リクルートコスモス入社、89年インテリジェンス(現パーソルキャリア)創業。98年大阪有線放送社(旧USEN)社長、2010年旧U-NEXT社長、17年12月から現職。

文=村上 敬 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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