パタゴニアを守りたい
マルコスはもともと、スペインの都市バルセロナ生まれだ。年間を通して温暖なバルセロナで、海との絆が強い家族の影響もあり、ごく幼いころから、海をもっと知りたいという思いを抱いてきた。バルセロナ大学卒業後は、海洋生物学者としてさらに研究すべく、オーストラリアのタスマニアに移った。そして、修士論文のために南極大陸に足を運び、人間の活動がその周辺の海洋微生物にどのような影響を与えているかを研究した。
それがきっかけで、はるか南方の地に人間がもたらす汚染に取り組むことになり、チリ領パタゴニア沿岸のマイクロプラスチックに着目したという。
「キャリアを積むうちに、南極から熱帯へ、メガからミクロへと研究が発展していき、生態系の働きと、人間がそこに与える影響について、非常に幅広い視野をもつようになった」とマルコスは振り返る。
マルコスによれば、チリ領パタゴニア沿岸の海は、プラスチック汚染が世界的なレベルでどれほど重大な問題であるかを、より深く理解するための尺度となる生態系だという。
「地球全体の気候が変化し、海洋学的な作用が起きるなか、この独特で重要な生態系が、いかに脆弱で、いかに影響を受けているのかを、私たちは目の当たりにしている。だから、研究がそもそも難しい環境ではあるが、それでもさらに取り組みを進めて、この生態系を理解し、守らなくてはならない」とマルコスは語り、パタゴニアのフィヨルドはまだまだ未知の部分が多いと続けた。
「しかし、ここには独特の海洋生態系があり、海底に生息する底生生物や、遠洋に生息する外洋性の生物からなる、素晴らしい生物多様性を支えている。また、大規模な淡水源といった、人類が地球で生き延びていく上で不可欠な資源もある」とマルコスは言う。「知識と認識を深めることで、高緯度にあるこの生態系にふさわしい価値と保護が与えられ、未来の世代がその意義と美しさを知ることができるようになることを願っている」
パタゴニアで異常発生する有害藻
チリ領パタゴニアにおける生態系の健全性に注目している研究者は他にもいる。アウストラル・デ・チリ大学の海洋学者で、南部の港湾都市プンタ・アレーナスを拠点に、高緯度海洋生態系を研究するIDEAL(The Center for Dynamic Research of High Latitude Marine Ecosystems)」の主席研究員ホセ・ルイス・イリアルテもそのひとりだ。イリアルテは2023年、チリ海軍が派遣した海洋研究船カボ・デ・オルノス号に乗船し、チリ人と外国人で構成された24人の科学者を率いた。
イリアルテによると、パタゴニア沿岸では、毒素を産出する海洋生物がいくつか確認された。そのなかには、魚類に影響を与える新種だけでなく、人間に麻痺や食中毒を引き起こすもの(有毒な赤潮)なども含まれていた。
「パタゴニアの冷たい海水で発生する毒性藻(赤潮の原因となる藻)は、人間の健康のほか、小規模漁業、水産養殖、沿岸地域社会にとって大きな問題だ」とイリアルテは話す。また、より頻繁に、より多くの場所で、新種の毒素が見つかることに、研究者は驚かされたという。
「沿岸に生息する有毒種と、変化する海洋の状況に連動した環境の水文気候学的/海洋学的な未知の特徴のあいだには、どのような関係性が存在し得るのか。それを理解することが科学的な課題だ」とイリアルテは述べた。
(forbes.com 原文)