WOMEN

2024.02.13 16:30

落語家・桂二葉から、女性蔑視の男社会に告ぐ「ジジイども、見たか!」

Forbes JAPAN編集部

「女人禁制」との闘い

2011年3月の入門から10年後の21年11月、転機が訪れる。NHK新人落語大賞で優勝したのだ。1972年の第1回大会から50年の歴史を通じて、女性落語家の優勝は二葉が初めてだ。その活躍ぶりは米ニューヨーク・タイムズ紙(2021年12月19日付)でも大々的に報じられた。

「受賞後の記者会見で、ちょっと記者の方にウケたいなぁと思って『ジジイども、見たか。って気持ちです』って言うてしまいました。可愛く(笑)。ようさん、おっさんどもにやいやい言われてきたから、つい。

大阪の天満天神繁昌亭は楽屋の中にカーテンの仕切りがあって、女性はそこで着替えられるようになりました。ほかの寄席小屋では、いまだに大部屋で男女混じって着替えなければアカンところもあります。後に入ってきてくれはる落語家のためにも、そんなんは早よ変えていきたいですねぇ」

まるで大相撲の土俵のように「女人禁制」を押し通す寄席小屋もあるそうだ。

「弟弟子はそこの寄席に出てるのに、私は出られへん。私の落語があかんねやったら納得いくんやけど、おもんない男の噺家も出てるやんけって思てました(笑)。女やから出してもらわれへんのが悔しくて、楽屋へ通って、とにかく一所懸命、楽屋のお仕事してたら、桂団朝師匠が上の人に『二葉も出したったらどないですか』って言うてくれはって、出られるようになりました。すごい嬉しかったです。ちょっとだけやけど壁を崩せたかなぁって。

『やっとここで落語ができる』と思って喜んでたら、寄席小屋の入り口に貼ってある『まねき』(看板)が、私のだけ違うんですよ。他の落語家は綺麗に印刷された名前が貼ってあるのに、私のだけ名前が手書きのやつやってん。それを桂南光師匠が見はって『なんで二葉ちゃんだけ手書きなんや。ちゃんとつくったげ』と言うてくれはったのも嬉しかった。優しい先輩方もたくさんいはります」

毅然と語る姿からは「口下手で、思ったことが上手に言葉に出ぇへんかった」という幼少期の二葉は、想像もつかない。

「落語家になって、ようやく言葉を覚えた感じがします。人ともしゃべれるようになり、高座で思いっきり自分を爆発させてます。落語してると『私、今生きてる!』と自分の心が満たされる。もっともっと面白い落語ができるよう、励みたいです」
落語は「アホになりきればなりきるほどお客さんが笑ってくれはる」。病みつきになった。

落語は「アホになりきればなりきるほどお客さんが笑ってくれはる」。病みつきになった。

Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2023」審査員の推薦コメント

石田裕子(サイバーエージェント 専務執行役員)

▷落語という男性社会のイメージの強い分野で大活躍され、多くの人に勇気を与える存在になっている。これからも新しい風を吹かせていってほしい。

山口慎太郎(経済学者、東京大学教授)

▷女性が極めて珍しい落語の世界で女性初の落語大賞を受賞するなど、新しい境地を開いた。


かつら・によう1986年、大阪府生まれ。京都橘大学文学部文化財学科卒業。2011年3月、桂米二に入門。21年、NHK新人落語大賞で優勝し、若手落語家の頂点に立つ。インタビューや対談を多数収録した著書『桂二葉本』が発売中。

文=荒井香織 撮影=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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