続く過酷な3カ月間、ウクライナの海兵隊部隊は、海軍歩兵や空挺兵、機械化歩兵らで構成されるはるかに規模の大きなロシア軍部隊の攻撃にさらされながら、なんとかクリンキで持ちこたえてきた。
ただ、橋頭堡は補給をほぼすべて小型ボートに頼っている。これらのボートの乗員は、爆薬を搭載したロシア軍のドローン(無人機)による攻撃で大きな打撃を被っている。これまでに、何十隻ものボートが損傷したり沈没したりしており、多数の乗員が死傷した可能性がある。
乗員たちは今は多少安心しているかもしれない。ウクライナ軍のドローンチームが最近、ロシア軍の最も危険なボートキラーを狙った作戦を実施し、《モイセイ》のコールサイン(無線会話で使われるニックネーム)で知られるドローン操縦士を遠隔攻撃で殺害したからだ。
ウクライナ軍のエースドローン操縦士《バル》が所属するとされるドローンチームは、ヘルソン州内とみられる建物からモイセイのチームがFPV(一人称視点)ドローンを操縦しているのを突き止めたうえで監視し、自軍の自爆FPVドローンを建物の入り口に突っ込ませた。
Ukrainian FPV ace "Balu" published footage of the strike that led to the destruction of the Russian FPV ace "Moisey". https://t.co/V0cnKY6UWb pic.twitter.com/lt68giAHJ0
— WarTranslated (Dmitri) (@wartranslated) January 19, 2024
「モイセイへのささやかな贈り物」(バル)が届くと、爆発で火災が起き、建物は火に包まれる。ロシアのソーシャルメディアチャンネルによれば、モイセイは死亡したという。モイセイは殺害されるまでに、ウクライナのボート31隻、兵士398人を攻撃したと伝えられる。
ドローン操縦士が敵のドローン操縦士を追跡して討ち取るという今回の対ドローン作戦は、ウクライナ軍がヘルソン州で昨年11月に行った作戦と類似点がある。その作戦では、ウクライナ軍の電子戦チームの一員がロシア軍のドローンフィードをハッキングし、そのフィードを海兵隊のドローンチームに中継した。海兵隊のドローンチームは三角測量でドローンの拠点がある位置を割り出し、監視用のドローンを送り込んだ。ほどなくして、ウクライナ軍の砲兵がその拠点を攻撃した。
今回は個人を目標にした攻撃という面が強く、緊急性はさらに高かった。モイセイはクリンキの橋頭堡を支援するボートの乗員だけでなく、クリンキの冷たい泥地に身を潜める海兵にも極めて大きな脅威をもたらしていた。
ボートで糧食や水、弾薬、交代要員を運搬できなくなれば、橋頭堡の海兵部隊は立ち行かなくなる。モイセイの殺害は海兵隊の補給に対する圧力の軽減につながる。
もっとも、モイセイやそのチームは代えが利く存在だ。代えのドローンチームは初めはモイセイのチームほど熟達していないかもしれないが、数週間生き延びることができれば、モイセイを危険な存在にしたのと同じような経験を積むだろう。
モイセイの除去によってウクライナ軍のボートの乗員は危険が減ったかもしれないが、それは束の間だろう。ドローン戦は今後も続くことになる。
(forbes.com 原文)