だが、ロシア海軍は違う。増強に苦慮している。その主な理由はただひとつ。大型艦を持たないウクライナ海軍が、ロシア海軍の艦船を撃沈したり、爆破したりしているためだ。
掲示板型ソーシャルサイトReddit(レディット)ユーザーのPhoenix_jzは毎年、上位10カ国の海軍の総トン数を集計・分析して公開している。このほど公開した最新の分析は、ウクライナの自由を支持する人々を勇気づけ、ロシアの侵略を支持する人々を憂慮させるに違いない。
ロシア海軍は2023年にわずか6300トン増やし、年末の総トン数は215万2000トンだった。同年にフリゲート艦やコルベット艦、掃海艇、潜水艦を新造して1万7700トン増やすはずだったが、ウクライナ軍が計1万1400トンの黒海艦隊の艦船を破壊した。
2023年に建造した艦船とほぼ同量のトン数を失ったロシア海軍は、維持がやっと、あるいは縮小している、他の不面目な海軍の仲間入りをしている。総トン数88万6000トンの英海軍も、2023年に規模を縮小させた。同海軍はかつて世界最大だったが、ここ数十年、歴代政権の失態により着実に衰退しており、これは特段目新しいことではない。
総トン数35万6000トンのイタリア海軍は縮小したが、これは主に、数隻の古い艦船の退役と、代わりに投入するはるかに大型の新しい艦船の就役の時期がずれたことによるものだ。
ロシア海軍は、戦闘で艦船を失い続けているためにほとんど規模を拡大させることができない唯一の海軍だ。この1年、黒海艦隊の「黒海での苦難は一向に減ることなく続いている」とPhoenix_jzは指摘した。
2022年2月のウクライナ侵攻時、ロシア黒海艦隊は約50隻の大型戦艦を擁していた。その中には、ミサイル巡洋艦モスクワや、数隻のフリゲート艦とコルベット艦、十数隻の揚陸艦、ディーゼル電気推進方式の潜水艦、そのほか多数の哨戒艇が含まれる。
これに対してウクライナ海軍は、フリゲート艦ヘーチマン・サハイダーチヌイという1隻の大型戦艦しか持たなかった。同海軍はロシアの侵攻直後に、南部オデーサの係留地で同艦を処分。海に沈めたことで、ウクライナ海軍は空軍の大きな支援を受けながら自爆型水上ドローン(無人艇)とミサイルで戦う新しいタイプの海軍となった。
黒海艦隊は1年11カ月にわたる激戦で、巡洋艦1隻、水陸両用艦4隻、潜水艦1隻、補給艦1隻、そして数隻の哨戒艇と上陸用舟艇をウクライナ軍のドローンとミサイルによる攻撃で失った。2023年の「圧倒的に最も大きな損失は、セバストポリで乾ドックに入っていた潜水艦ロストフ・ナ・ドヌーが破壊されたことだ」とPhoenix_jzは書いている。同潜水艦は3100トンもあった。
他国の海軍なら戦争での損失を埋め合わせることができるかもしれないが、ロシアの造船部門はソ連の終焉とともに崩壊した。まだ残っている造船産業が、ウクライナから輸入していた船舶用エンジンに頼っていたことも災いしている。ウクライナは当然のことながらロシアにエンジンを売る気はない。
現在、ロシアの造船所は大型潜水艦を何とか建造しているが、数千トン超の水上戦艦の建造には苦慮している。
そのため、世界をリードする米海軍の総トン数が2023年に3万2000トン増えて739万3000トンに、急成長中の中国海軍が5万トン増の289万9000トンになったのに対し、ロシア海軍の総トン数はほとんど増えていない。
すべてウクライナ海軍が理由だ。大型艦を持たない同海軍は、ロシアがなんとか建造しているのとほぼ同じトン数の艦船を破壊し続けている。
(forbes.com 原文)