欧州

2025.06.16 09:00

ロシア経済が奇跡の回復 戦争資金を絶つために欧米は一致団結を

ロシアのルーブル紙幣(Shutterstock.com)

ロシアのルーブル紙幣(Shutterstock.com)

「スパイダーウェブ」と名付けられたウクライナの大規模な無人機(ドローン)作戦が1日に実施され、ロシア国内の戦略爆撃機資産が損害を受けた。ウクライナ軍はさらに、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を併合後、同半島とロシア本土を結ぶために多額の資金を投じて建設したケルチ海峡橋をも攻撃し、実質的にも印象の上でもロシアに大きな打撃を与えた。

他方で、ロシア経済は徐々に改善し、ウクライナに対する攻勢を強めており、ロシア大統領府(クレムリン)はドナルド・トランプ米大統領の仲介による停戦交渉をも拒否するに至った。国内の経済低迷を脱し、戦場で勝利を収めることに全力を尽くすロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、景気の改善は朗報だ。

天然資源の輸出から得た資金はロシアの軍資金となっている。すなわち今こそ欧米は協力し、クレムリンの蛇口を閉めるべき時だ。戦争を継続するために必要な資金をクレムリンから奪うことでのみ、戦場に平和を取り戻すことができる。

しかし残念ながら、事態はまったく逆の方向に進んでいる。欧米の制裁にもかかわらず、天然ガスパイプライン「トルコストリーム」を通じたロシア産天然ガスの欧州向け輸出は4~5月にかけて10%以上増加したのだ。これにより、2023年には70億ドル(約1兆円)の損失を計上していたロシア国営天然ガス企業ガスプロムは今年第1四半期、予想外の84億ドル(約1兆2000億円)の利益を上げた。

欧州連合(EU)は10日、ロシア産原油の価格上限を現行の1バレル60ドル(約8600円)から45ドル(約6500円)に引き下げるほか、第三国によるロシアの銀行の利用を禁止し、EUの事業者によるロシアの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の利用を禁止するなど、一連の追加制裁を検討していると発表した。EU加盟国がこの追加制裁案を承認すれば確かに影響が出るだろうが、それが保証されているわけではない。実際、ハンガリーとスロバキアの政権はロシア寄りで、EUによる対ロシア制裁に真っ向から反対している。だが、米国とEUが協力して対ロシア制裁の強化に踏み切った場合、形勢を一変させる可能性があり、最終的にはクレムリンに交渉を迫ることになるだろう。

一方、大西洋の反対側では、米政府が、ロシアがエネルギー産業から利益を得られないよう動いている。トランプ大統領に近い米共和党のリンゼー・グラム上院議員が提出した2025年対ロシア制裁法案には、米企業によるロシアのエネルギー産業への投資や輸出を禁止し、米国に輸入されるロシアの製品やサービスに500%の関税を課すとともに、ロシア産の原油、ウラン、天然ガス、石油製品、石油化学製品を販売、供給、輸送、購入する国にも同じ税率の関税を課す措置が含まれている。これらの措置は、ロシアの輸出力を弱めると同時に、欧州諸国を含むロシア産天然資源の輸入停止をためらう国々が積極的な対策を取らない場合に圧力をかけるという2つの目的を果たすだろう。

次ページ > ロシア経済はなぜ改善しているのか?

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事