アジア

2024.01.09 14:00

大学にとってのハマス対イスラエル

10月7日にガザ地区のハマスが、多数のロケット弾をイスラエルに撃ち込むとともに、イスラエル国境を越えて、イスラエル領土内に侵入、約1200人の住民を殺害したうえに、約240人をガザ地区に連れ去り人質とした。イスラエルは、戦争状態を宣言して、ガザ地区にロケット弾を撃ち込むなどして応戦、10月27日から地上作戦を展開、ガザ北部に攻め入った。病院や学校も含めてガザ北部の多くの建物が破壊され、12月4日現在、1万5000人が死亡した、とされている。

カタールの仲介で、11月24日から7日間、一時戦闘休止を行って、ハマスが拉致した人質の一部102人と、イスラエルが収容していたパレスチナ人210人を「人質交換」したものの、これも期限が切れて、戦闘が再開された。イスラエルはハマスが全滅するまで戦闘をやめないとしている。イスラエルのガザ地区での戦闘が継続して死者が増え、生活環境もどんどん悪化している。国際社会からも一般市民の犠牲が増えていることに対して、人道的な見地からのイスラエル批判も高まってきた。

アメリカの多くの大学では、パレスチナ支持の学生、教員が、イスラエル非難の声明を出したり、校内で集会を開いたりして気勢を上げている。なかには、イスラエルの抹殺を暗示する、「From the river to the sea」を叫んだり、ユダヤ人の学生に危害を加えるよう呼びかけているグループもいる。一方、このような過激なメッセージに対しては、当然の反発もある。ハマスのイスラエル攻撃を擁護するような学生の内定を取り消すという弁護士事務所も出てきた。また、ハマスやパレスチナ擁護の声明文に署名した学生や教員の名前と顔を公衆に晒す(doxing)ような街宣車が大学の周辺を周回することも起きた。

10月7日のハマスのイスラエル攻撃が今回の問題の発端であると明確に言わない学長や執行部は、事実上ユダヤ人差別を助長しているという批判もある。特に、大学に巨額の寄付をしてきたユダヤ系の富裕層の人たちのなかで、ハマスを非難しない大学への寄付を取りやめる、という動きも出てきた。

ユダヤ系アメリカ人は、イスラエル抹殺やユダヤ人への脅迫には特に敏感で、反ユダヤ主義(anti-Semitism)として強く反発する。これは、第二次世界大戦中にナチスのヒトラーが600万人ものユダヤ人を大量虐殺したホロコースト(holocaust)を想起させるからだ。実は、アメリカ社会にも反ユダヤは存在していた。第二次大戦後まもなく、後のノーベル賞経済学者、ポール・サミュエルソン氏が、ユダヤ系アメリカ人への差別の結果、ハーバード大学で職を得られずMITで採用され、その後、MITの経済学を一流に押し上げたことは知る人ぞ知る秘密だ。
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文=伊藤隆敏

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