だが、それはロシア側がアウジーイウカの攻略を断念したということではない。ロシア軍は、ウクライナの南部・東部各地での反撃にリソースを移しつつ、アウジーイウカを直接攻撃せずに包囲することを狙っているとみられる。
この戦略で鍵を握るのが、夜間飛行可能な新型の攻撃ドローン(無人機)だ。こうしたドローンによってロシア側がアウジーイウカへの補給線の遮断に成功すれば、戦車や歩兵による攻撃に持ちこたえてきたウクライナ軍の守備隊は、退却に追い込まれるおそれがある。
ただし、ウクライナ側が、南部の部隊がしているように電波妨害(ジャミング)でドローンの飛行を不可能にすれば、アウジーイウカを引き続き保持できるかもしれない。
「(アウジーイウカの)ウクライナ軍部隊の全般的な状況は安定している。ロシア軍の攻勢はピークに達したようだ」と分析グループのフロンテリジェンス・インサイトは12日の戦況分析で述べている。「ロシア軍部隊は積極的に攻撃する意欲を失っており、作戦装備の数も著しく減っている」
「一方で、アウジーイウカのウクライナ軍部隊の兵站状況はさらに悪化している」とフロンテリジェンス・インサイトは続けている。「ドローンの攻撃を避けるため夜間に補給が行われてきたが、現地からの報告によると、ロシア軍部隊はサーマル暗視カメラを備えたFPV(1人称視点)ドローンを使い出したようだ。このため夜間も補給が難しくなっている」
FPVドローンは航続距離の短い小型ドローンで、操縦士が無線通信で操縦する。操縦はVRヘッドセットを装着して行うことも多い。500g程度の爆薬を詰め込んだ重量1kgほどのFPVドローンは、人間が誘導する精密誘導弾のように機能する。費用は500ドル(約7万1000円)くらいだろうか。
ロシアがウクライナで拡大して22カ月目に入っている戦争で、ウクライナ軍もロシア軍も、1000km近くにおよぶ前線に大量のドローンを配備している。ドローンはいたるところで飛んでいるが、必ずしもいつも飛んでいるわけではない。大半のドローンは赤外線カメラを搭載していないため、操縦士が目標を捕捉しにくい夜間はあまり役に立たないのだ。