2023.12.26 15:30

人と自然のバランス。英国のホテルで感じる「本物の洗練」

鈴木 奈央

歴史×エンタメのミュージアム

イギリスは西暦43年から410年にかけてローマ帝国の一部だった。そして、この「ザ・ニュート」敷地内では、351年に建設された往時の邸宅の遺跡が発掘された。

この貴重な歴史的な遺産を保全するだけでなく、当時の暮らしを体感してもらえるミュージアムを作ろう、と考えて生まれたのが「ローマン・ヴィラ」だ。

そこでは、この地で発掘された遺跡や出土品を展示するほか、VRなどでローマ時代の生活風景が見られるようになっている。イヤフォンガイドをしてつけて回ると、ボタン操作などをしなくても、そのエリアに近づくと、センサーで感知して自動で音声が流れる。タッチパネル操作で楽しめるものもふくめ、最先端の技術を活用しながら遺跡をエンターテインメント的に楽しむことができる。

さらに少し離れた場所には、実際の生活を再現した家も建てられていて、当時の暮らしを感じることができた。
このローマ時代の家の中では、スタッフも当時の服装に身を包み、まるでタイムスリップしたかのような体験が楽しめます。

このローマ時代の家の中では、スタッフも当時の服装に身を包み、まるでタイムスリップしたかのような体験が楽しめる。

また、ローマ時代にはワインづくりが行われていたということで、昔ながらのワインづくりもスタートした。アンフォラを使って貯蔵されたワインに水を加え、月桂樹の葉やサフラン、蜂蜜などで味付けし、当時楽しまれていたローマ帝国風のワインを製造中で、近日中にショップで発売予定だという。

持続可能なファームと、多様な魅力あふれるレストラン

「ザ・ニュート」はファームでもあり、ここで育てられている牛や羊、野生の鹿はレストランで提供される。いずれも工業型畜産ではない放し飼いで、牧草を食べて育つ他、ふんは堆肥にするなど、こちらも、循環型農業のスタイルが確立している。

敷地内で見かける真っ白な牛はイギリスの原種「ブリティッシュ・ホワイト」。鹿は頭数をカウントし、メスと繁殖用のオスを残して、主に2歳を過ぎたオスがテーブルに上る。敷地内には食肉処理場もあり、動物にとって移動のストレスがなく、アニマルウェルフェアも考慮されている。またその“ストレスのなさ”は、肉質にも影響するのだという。

日本では野生動物の保護の必要性とともに、野生の鹿による獣害も報告されているのと同様、やはり大切なのはバランス。程よく人の手が入ることは、自然を守り、持続可能な環境作りにもつながっている。

そんな園内の食材も活用するのが3つのレストランだ。メインビルディングの中にある「ザ・ボタニカル・ルーム」は、バーも備え、邸宅らしいシックなインテリアが魅力。このブリティッシュ・ホワイトのローストにラムソンを添えた一皿など、2~3コースのランチとディナーが楽しめる。

一方、リンゴ園を抜けた、少し離れた場所にあるのが、薪窯を使った直火焼が魅力の「ファームヤード・キッチン」。活気あふれるオープンキッチンで、アラカルトが中心。どのレストランにも自家製シードルが置いてあり、リンゴの品種や造りによって異なる、シードルとのペアリングも楽しめる。
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文・写真=仲山 今日子

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