食&酒

2023.11.25

スパークリング・ワインの有望株、英国「ガスボーン」の進化

ガスボーン(Gusbourne)のアンバサダー、ローラ・リースMS(Laura Rhys)

2023年の春、ロンドンで開催されたワイン品評会で100本以上のシャンパーニュを審査した後、友人のマスター・ソムリエが働く著名なレストランを訪ねた。席に着くや否や、1本のスパークリング・ワインが注がれ、何だと思うか尋ねられた。

一緒に食事をしている友人らと「高品質のワインだがどこだろうか……」と議論したのだが、結果はイギリスのスパークリング・ワイン。優良な生産者のものは、世界の良質な銘柄に肩を並べる品質になっていることを改めて実感した。

これまでイギリスは冷涼な気候で、ブドウ栽培が難しいとされていたが、昨今の気候変動の影響により、フレッシュさや酸が鍵となるスパークリング・ワインの有望な生産地として、世界のワイン地図にその名を刻んできている。

今回は、イギリスのスパークリング・ワインの生産者ガスボーン(Gusbourne)の新たな試みを探ることで、ワイン産地としての可能性をみていきたい。

約30年で20倍のブドウ栽培面積に

ガスボーンの始まりは2004年。創業者のアンドリュー・ウィーバーが、世界トップクラスのワインに匹敵するスパークリング・ワインを造ることを目標に、このワイナリーを設立した。アンバサダーを務めるマスター・ソムリエのローラ・リース(Laura Rhys)さんは、こう説明する。

「1980年代後半に、イギリスで、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵の伝統製法によるスパークリング・ワインが造られ始めました。その歴史は約30年と浅く、また、私たちのように小規模な生産者ばかりなのですが、みんな、情熱をもってワイン造りに取り組んでいて、ダイナミックでクリエイティブなワイン産地です」
ガスボーン(Gusbourne)のスパークリング・ワイン

ガスボーン(Gusbourne)のスパークリング・ワイン

ブドウの栽培面積も急拡大した。1980年代には211ヘクタールだったが、2010年代には約10倍に。現在では約4000ヘクタールの栽培面積で、ワイン産地として十分な大きさに成長している。

ガスボーンは、ブドウ栽培の北限である北緯51度に位置する。気候条件も厳しく、リスクも多いのだが、近年は温暖化の影響もあり、スパークリング・ワインの生産地として好条件が揃ってきている。例えば、ブドウの生育期間が長いので、ブドウはゆっくりと成熟し、高い酸を保ちながら、フェノリックの成熟度が高いブドウが収穫できる。

ガスボーンでは、すべて自社畑のブドウからワインを造る。「品質は畑から始まっています」とローラさんが説明するとおり、100%自分たちでコントロールできるからだ。

では、その畑はどこにあるのだろうか。
次ページ > 2つの州から異なる特徴のワインを造る

文・写真=島 悠里

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事