食&酒

2023.11.25 13:30

スパークリング・ワインの有望株、英国「ガスボーン」の進化

鈴木 奈央

2つの州から異なる特徴のワインを造る

ガスボーンは、ケント州に60ヘクタール、サセックス州に30ヘクタールの畑を所有している。およそ130km離れたこの2つの畑について、ローラさんは次のように説明する。

「ケント州の畑は海岸から10kmの距離で、海岸から近く、海抜1~2mと低い標高です。土壌はリッチな粘土と場所によっては砂の土壌。粘土土壌は熱と水分を保ち、ここで育つブドウは、成熟度が高く、力強く重厚なワインになります。これに対して、サセックス州の畑は海岸から16kmの距離。石灰質の土壌で、若干海抜も高い場所にあります。ここからは、エレガントで酸が高いワインができます」

こうした特徴の異なる畑に、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3品種を、異なるクローン、異なる台木で植えている。そして、これらを別々に収穫し、醸造することで、毎年、約250種類ものベースワインができ上がる。ローラさんは、醸造家と一緒に、これらのワインを丁寧にテイスティングし、ブレンドして、各ワインを造り上げていく。

ブレンドのポイントは、「その年の個性、ガスボーンのスタイルをワインに表現すること」だと言う。
2023年に満を持してリリースした「51°N(51 degrees north)」

2023年に満を持してリリースした「51°N(51 degrees north)」。日本では120本限定、4万2000円で販売した

最上級キュヴェによる挑戦

ガスボーンは、2023年、「51°N(51 degrees north)」という新しいプレスティージュ・キュヴェを発表した。

構想から完成まで長い時間をかけて作ったこのワインは、「私たちの畑からどのように優れたワインが造れるかという可能性に挑戦し、イギリスのスパークリング・ワインの新しい時代を切り拓く存在」だと、ローラさんは言う。

「51°N」の名前は、ガスボーンの畑が位置する緯度を表す。厳しい気候条件のもとで素晴らしいワインが造れることを示すという挑戦の意味もあるのだろう。

初リリースは、イギリスにとって良作年となった2014年の、シャルドネ(64%)とピノ・ノワール(36%)をブレンドした。約80カ月澱での瓶内熟成を経て、さらに18カ月間熟成させた、渾身の作品だ。

「多くのベースワインの中から、最も優れたものだけをセレクトし、更なる注意を払って創り上げました。最も力強く、繊細で、重心を兼ね備えています。10~15年間は熟成するワインです」
Laura Rhysさん(右)と筆者(左)@ロンドンの会員制ワインクラブ67 Pall Mall

Laura Rhysさん(右)と筆者(左) ロンドンの会員制ワインクラブ67 Pall Mallにて


イギリスのように新興のワイン産地は、パイオニアたちが、「何がその土地にベストなのか」を真摯に模索するなか、話を聞くたびに新しいことが起きていて勢いがある。今この時代に、その礎が築かれている最中なのだが、その発展していく様を見られるのも、ワインラバーとしては面白い。

文・写真=島 悠里

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