「龍王」とよばれるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の治世下で、ブータンは密かに暗号資産のシャングリラへと変貌を遂げ、政府はその土地や資金、エネルギーを投じて、経済的苦境から脱出することを願っている。
しかし、ブータン政府はこれらのマイニング(採掘)施設の場所や規模を明らかにしたことはなく、約4年前に同国が世界初の国営マイニング施設を立ち上げたことも、国外ではほとんど知られていなかった。
ブータン政府がデジタル資産への投資についてコメントし始めたのは、フォーブスが今年5月の記事で、同国の政府系ファンドが、破綻した仮想通貨貸し付けサービスのBlockFi(ブロックファイ)やCelsius(セルシウス)の顧客だったことを報じた後のことだ。
そして今、フォーブスは関係者の証言と複数の衛星画像データに基づき、ブータン政府が運営する4つのマイニング拠点と思われるものの場所を特定した。
それらの施設のうちのひとつは、ブータンの教育と知識のための国際拠点になるはずだった、失敗した「エデュケーション・シティ」と呼ばれる10億ドル(約1400億円)の巨大プロジェクトの跡地に建設されている。過去の衛星写真によれば、その建設は2021年12月頃に開始されており、それと同時期に、財務省の税関データに1億9300万ドル(約270億円)の「プロセッシングユニット」の輸入が記載されていた。
ブータン政府は、若者の失業率が上昇し、国外移住者と人材流出が急増する中で、未来を確保する手段として、教育都市プロジェクトを国民に宣伝していた。ロイターは今年8月、ブータンの人口の約1.5%が2022年にオーストラリアに移住し、その多くが雇用と賃金の向上を求めていたと報じた。地元紙のKuenselによれば、ブータンの最低賃金は月額わずか45ドル(約6400円)で、人口の約12%が貧困ライン以下で生活している。
エデュケーション・シティはそれを変えるはずだった。2009年、ブータン政府はコンサルティング会社のマッキンゼーに約900万ドル(約13億円)を支払い、10億ドルの「医療、教育、金融、ICTサービスのための世界クラスの地域ハブ」の設計を依頼した。2つの川の合流地点に位置する1000エーカー(約400万平方メートル)のキャンパスは、同国の実験的な国民総幸福量(GNH)経済モデルの道標であり、アジアにおける高等教育ハブとなるはずだった。
しかし、そのいずれも実現しなかった。政治的スキャンダルや、管理上の不手際によってプロジェクトは遅延し、2014年に廃止された。そして、現地に残されたのが道路や橋などに加え、ビットコインのマイニングに必須の電力インフラだった。
ブータン政府の投資部門であるDruk Holdings & Investment(DHI)は、マイニング施設の存在を認めている。「ブータンにおけるビットコイン採掘関連施設の用地は、電力供給などのさまざまな要因に基づき選定された」と、DHIは外部の通信会社を通じてフォーブスに語った。しかし、「我々は、機密事項については開示しない」として、その場所についてのコメントは避けた。