海外

2023.12.28

きめ細かな特典付きクレカで大手銀行に挑む米フィンテック企業Imprint

ダラグ・マーフィー|Imprint CEO, Founder(C)Imprint

テキサスに本社を置くスーパーマーケット大手のH-E-Bが、4月に特典付きクレジットカードを発行した際に頼ったのは、アメリカン・エキスプレスやJPモルガンのような大手ではなかった。その代わりに同社が選んだのは、アイルランド人創業者のダラグ・マーフィー(Daragh Murphy)が率いるImprint(インプリント)という設立3年のスタートアップだった。

インプリントは、消費者ブランドとの提携で共同ブランドのクレジットカードを発行するSaaS系のサービスを展開している。

H-E-Bの340店舗では、毎週約800万人の買い物客がインプリントを通じて食料品などの代金を支払い、5%のキャッシュバックやその他の特典を受け取っている。H-E-Bは、この取り組みで顧客ロイヤリティを高めており、インプリントのカードを契約した数十万人の顧客は、サービス開始以来、数百ドルも多く買い物をしているとマーフィーは言う。同社はカードの年会費や、利息収入と手数料の一部を収益源としている。

インプリントのサービスの売りは、テクノロジー優先のアプローチで、従来の銀行が提供する特典付きカードよりもきめ細かな特典を提供できることだ。例えば、H-E-Bのカード会員は、H-E-Bが最も高いマージンを持つ自社ブランドの商品を購入すると5%のキャッシュバックを受けられるのに対し、他の企業の商品では1.5%のキャッシュバックしか受けられない。さらに、セールの時期には、会員に向けて特売情報をSMSやプッシュ通知で送信できる。マーフィーは、このようなパーソナライズされた施策が、顧客の支出額を伸ばすと説明した。

「私たちがブランドに売っているのはロイヤリティです」とマーフィーは言う。「あなたの企業のカードを顧客の財布に入れることができれば、その人は以前よりも多くあなたの企業の商品を買ってくれることになります」

ニューヨークを拠点とするインプリントは先日、シリーズBラウンドで7500万ドル(約107億円)を調達し、評価額を2021年後半のシリーズAで達した1億6000万ドルから2億4000万ドル(約360億円)に引き上げた。フィンテックに特化したVCのRibbit Capitalがこのラウンドを主導し、クライナー・パーキンスらが参加した。

金利の上昇に伴い評価額が急落しているフィンテック業界では珍しい、アップラウンドとなった今回の資金調達は、インプリントがより大きな企業の顧客を獲得し、より多くの報酬を管理するという目標に向かう助けとなるだろう。同社は、マーフィーによると、「世界のトップ10に入る航空会社」とも契約しているが、どの航空会社かは明らかにしていない。

提携クレジットカードは、1980年代にマイレージ会員に特別な特典を与えようとする航空会社によって普及し、その後、セフォラのような美容チェーンからウォルマートのような小売業者まで、特典を通じて顧客ロイヤリティと消費額の増加を図ろうとする様々なカテゴリで拡大してきた。2022年には120億ドル(約1兆7000億円)に達したと推定されるこのようなカードの市場は、アメリカン・エキスプレスをはじめ、JPモルガンやキャピタル・ワン、シンクロニー・バンクなど大手が依然としてほぼ独占している。

パーソナライズされた特典が強み

マーフィーは、独自のシステムの上に構築された自社の洗練されたソフトウェアがインプリントの強みになることを期待しており、より多くの顧客をカード会員として承認し、彼らが受け取る特典をより良くカスタマイズしようとしている。インプリントは大手銀行よりも小さな与信枠を設定することが可能で、顧客の支払い行動を観察した上で徐々に限度額を引き上げていく。また、銀行と同じ規制に縛られないため、より多くの資金をより早く投入することができるとマーフィーは主張している。
次ページ > 大手との熾烈な競争

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事