だが、それだけではない。こうした損失を巡る不確実性が、中国国民の住宅購入に歯止めをかけている。実際、新築住宅販売額は、数年間落ち込みが続いた後、最近になって8月の最低水準を上回り持ち直した。だが、不動産調査会社である克而瑞(CRIC)によると、10月の販売額は556億ドル(約8兆2000億円)相当で、依然として前年同月を約30%下回っており、新型コロナウイルス流行前のピーク時の水準にははるかに及ばない。不動産価値の下落は家計の豊かさを損ない、中国の消費者は消費に非常に消極的になっている。
政府は最近になってようやく経済成長を促すための措置を講じた。現在のところ、その努力は遅きに失した感がある。中国人民銀行(中央銀行)は金利を引き下げ、個人と企業の両者による借り入れや支出の増加を促しているが、これまでのところ、成果はほとんど現れていない。個人消費や企業投資を抑制する強力な力に対し、大きな変化をもたらすことができるとは考えにくい。政府はまた、経済を刺激する上で中国のお決まりの手段となっているインフラストラクチャー支出の増額計画も開始した。先ごろ発表された取り組みでは、特に洪水で荒廃した省でのプロジェクトに資金を投入するため、1兆元(約21兆円)の融資を認可する。これまでの形だけの努力を考えると、約18兆ドル(約2600兆円)に相当する経済規模を誇る中国においてこれで十分なのかという疑問が生じるのはもっともだ。
習近平が初めて国家主席の座に就いた10年前、中国経済は規模と力の両面で米国をも追い越す勢いだった。中国は世界の舞台で支配的とまではいかなくとも、有力な存在になると広く期待されていた。習近平は、それが中国を率いる自らの野望であると明言した。それ以来、中国はこの点において一定の成果を上げてきたが、努力全体を支える原動力である経済は揺らぎ始めている。今後はこれまでほど中国への追い風は吹かなくなり、習近平の野望は達成できないだろう。
(forbes.com 原文)