アジア

2023.10.16 11:00

中国「一帯一路」に広がる不協和音 イタリア離脱が追い打ちに

遠藤宗生

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中国の広域経済圏構想「一帯一路」は、イタリアが離脱を示唆する前からいくつもの困難に直面していた。イタリアの離脱は現実のものになる可能性が高く、とくに大きな打撃になりそうだ。

他方、ジョー・バイデン米政権とインドは、一帯一路と競合する構想を発表した。アジアと中東、欧州を鉄路や海路で結ぶ「経済回廊」の整備をめざすものである。中国の習近平国家主席は2017年の「一帯一路フォーラム」で、一帯一路を「世紀のプロジェクト」と呼んでいたが、一帯一路をテコに経済的・外交的影響力を広げようとする中国の取り組みは、そんな野心的な目標からほど遠い状態にあるように見える。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、先ごろインドで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議の記者会見で、一帯一路からの離脱は最終的に決まったわけではないと説明している。正式な離脱表明の期限は12月となっており、もし離脱を表明しなければ、イタリアが2019年に中国と交わした一帯一路に関する覚書は2024年に自動的に更新される。一方、離脱をすれば、一帯一路は主要7カ国(G7)で唯一の参加国を失う。そして、こちらのほうが可能性は高い。

外交界では、米国と欧州連合(EU)がイタリアに脱退するよう圧力をかけたのではないかという臆測が飛び交っている。イタリアは来年、G7の議長国に就くことになっており、そのあたりの事情も絡んでいるのかもしれない。ともあれ、そうした働きかけについては米国もEUも認めていないし、イタリアにしてもそうだ。

イタリア政府が言っているのは、一帯一路は自国経済に十分な利益をもたらさなかった、ただし、中国との友好的な貿易・外交関係を保つことは決意している、ということだけだ。実際、G20に合わせて会談したメローニと中国の李強首相は、イタリア側の発表によれば「対話を強化し、深めていく」という意思を確認している。とはいえ、イタリアが一帯一路からの離脱後も中国と良好な関係を維持できるのなら、米政府の見立てでは他国にも離脱を促す結果になる可能性がある。

一帯一路はほかにも問題を抱えている。多くの参加国にとって、取り決めは当初想定していた以上に重荷になった。一帯一路構想は初めからマフィアのような雰囲気を漂わせていた。中国はアジアやアフリカ、中南米、中東、欧州周縁部などの経済的に困窮した国に接近し、港湾や鉄道、ダム、道路といった重要なインフラ事業への融資をもちかける。そして中国の国有銀行が資金を融通し、中国の請負業者が施工する。完成後も事業は中国側が管理し、相手国側の支払いが滞れば所有権も握る。

どのみち、参加した国に対して中国は影響力をもち、相当大きな力を行使できるようになる仕組みだ。米ウィリアム・アンド・メアリー大学の研究機関であるエイドデータによると、2012年に習指導部が発足して以来、中国はこうした融資を約150カ国で計1兆ドル(約150兆円)超行い、いまや世界最大の債権国になっている。

時間がたつにつれて、多くの参加国は自国側が不公平な立場に置かれていることを理解するようになった。問題の大きな部分は、一帯一路のもとで進められる事業は経済的な理由よりも政治的・外交的な理由で選ばれていることにある。こうした事業はもともと胡散くさかったが、いまでは融資の返済を続けられる水準の収入を得られないことが明白になっている。

たとえばスリランカで建設された港湾は、新型コロナウイルス禍で貿易が制限される前ですら、融資条件を満たせるほどの貨物取扱量がなかった。この事業の融資は焦げ付いた。同じように資金を回収できなくなった事例は、中国の銀行側は公表していないものの、ほかにいくつもある。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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