幻覚剤を使った「安全な精神療法」はまだ遠い夢かもしれない3つの理由

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幻覚剤(サイケデリック・ドラッグ)に関して、その効能を巡る科学的に決定的な証拠は全般的に欠如している。熱狂する人々は過度に楽観的な見方を示し、その変革をもたらす体験と潜在的便益を強調する。その一方で、幻覚剤に反対する人々は、リスクと未知な部分、とりわけ幻覚剤の与える長期的な心理的影響に関する総合的研究が行われていないことを強調する。

幻覚剤の可能性に関する楽観論が、数十年にわたる研究に支えられているのは真実だ。しかし、Therapeutic Advances in Psychopharmacology誌に掲載された新たな論文は、幻覚剤に関する研究の本質に疑問を投げかけている。確かに、幻覚剤がうつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの治療に効果があるという研究結果は複数あるが、果たして科学は鉄壁なのだろうか? 実際、そこには真の難題がたくさんある。

幻覚剤の研究は3つの困難な問題に直面しており、幻覚剤がメンタルヘルス治療に革命を起こす夢を実現できるかどうかは、それらの障害を乗り越えられるかどうかにかかっている。

1. 幻覚剤が心理的問題における「魔法の療法」であるという説

ある種の幻覚剤の便益をメディアが大きく取り上げてきたことによって、実験に参加するほとんどの被験者は、それらの薬品の効果に期待を寄せる傾向がある。このことが研究結果を歪める可能性がある。

それは、プラセボ効果として知られているもので、人が治療を受けていると信じるだけで、たとえ実際にはそうでなくても、体の状態に変化を感じることをいう。

2014年のプラセボと片頭痛に関する研究の意味するところを考えてみよう。実験では、被験者に与えられる「肯定的」な情報の量を増やすことで、片頭痛が起きた際の、プラセボと実際の薬品、両方の効果が徐々に高まることが明らかになった。興味深いことに、プラセボの効果は、それがプラセボであることが正直に説明された後まで続いた。この発見は、治療結果に対する期待と思い込みがもたらす影響の奥深さをに光を当てた。

幻覚剤の研究において、薬の実際の効果と被験者の期待に起因する変化を区別することは、ますます難しくなっている。メンタルヘルスの改善が幻覚剤によるものなのか、単なる心理的期待によるものなのかを知ることは重要であるため、この問題は極めて深刻だ。
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翻訳=高橋信夫

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