椰子の木に着想を得たという網目から、柔らかな木漏れ日が差し込む。その下で一人思索する人、デートするカップル、家族連れなど、みな思いのままに時を過ごし、ゆったりと平和な時間が流れていた。
中に入ると、紀元前35万年前の石片に始まり、現代までの人類の創造の道のりが一望できる。博物館と美術館が融合したような見応えがある展示だ。母の像には、母親としての自分の在り方を問いただされる思いがした。
歩き回った後は、アブダビの街が一望できるカフェで一休み。味はさておき、未来的なビルに囲まれた海上を、ウォータースキーやボートを楽しむ人々が時折行き交う水上都市ならではの開放感が気持ち良かった。
帰国前には身を清め、体を整えるためにスパへ。ネットで奇跡的に予約が取れた評判の良いハマムで全身をゴシゴシ洗って古い角質をとってもらった。すると、ロングフライトやアドベンチャー体験で疲れきった体が、綿のように軽くなった。
自分より若い国で得た気づき
未知の地で、アドベンチャーを柱に文化や宗教、ウェルネス体験をバランス良く散りばめた6つもの体験を、たったの14時間内でこなしたのは、これまでの旅で最も濃密な時間の過ごし方だった。これもネット時代の恩恵、デジタルネイティブな娘がチケットやUberをテキパキ手配してくれたからこそ。たったの半日、3、4日過ごしたかのような刺激と達成感が得られた。高付加価値の体験や旅行を推進したい日本にとっても多くのヒントがある。こうして足を運んだことで、これまで目を向けることがなかったアブダビという国への興味も湧いた。最近ではドバイの方が注目されているが、アブダビ首長国はアラブ首長国連邦の首都で面積、人口、収入ともに最多。広大な国土に埋もれた石油資源により、政治や経済を動かすアラブのリーダー的存在らしい。しかも建国若干52年。自分より若い国に足を運んだのは、生まれて初めてだ。
民族衣装の良さも改めて感じた。街の至る所で、カンドゥーラやアバヤを着た人々が行き交う光景は、民族の誇りを示し、訪れる我々観光客は異国情緒に浸れる。アオザイを身に纏ったベトナムの人々にもそれを感じた。
日本をはじめ民族衣装が残る国々でも、着る機会は特別なオケージョンに限られ、日常着や学校の制服などにその面影がないところは多い。しかし訪れた人が最も敬意を感じるのは、特別な文化財や立派な建造物だけでなく、日々の生活にあるさりげない国民性や生活文化でないだろうか。そういった意味でアブダビの人々には、誇りとフレンドリーさの共存を見た気がする。
一方で、どんなに刺激的な旅の後も、安全で清潔な日本に着くとホッとし、改めて良い国だと実感する。パリでは地下鉄は危なくて乗れないこともあり、街はどの時間帯も至る所で大渋滞、移動時間に大変な時間がかかった。あたりまえに感謝できるのも、旅を経たからこそ。
帰宅すると子どもに「どうしたの? すごくスッキリして、若返ったみたい」と驚かれた。サプライズに満ちた時間が、私の意識を、脳や体の感覚を、別次元に誘ってくれたからでないか。これだから旅はやめられない。