都内を見ても、今、街は外国人であふれている。昭和レトロな新宿の飲み屋街「思い出横丁」は、日本のサラリーマンのたまり場ではなく「お客さんのほとんどが外国人」になっている。
コロナ禍からの脱却において、観光庁は急増する訪日客をもてなす体験の創出に力を入れている。今年1月より、地方や民間によるコンテンツ創出を支援する「観光再始動プロジェクト」を展開。現在日本の各地で、採択されたさまざまなイベントや事業が花盛りだ。
国宝松本城で至極のディナー体験
10月半ばには、国宝松本城で2夜限りの特別なディナーイベントが開催された。主催は、県内で旅館「扉温泉明神館」やレストラン「ヒカリヤ ニシ」などを手がける扉ホールディングス。同社も加盟する、世界屈指のホテル・レストランの会員組織「ルレ・エ・シャトー」のシェフ9人が協力し、“発酵”をテーマに長野の食文化を汲んだコース料理を提供した。観光再始動プロジェクトは、「これまでに一度も実施されたことがないものなど、新規性が高く特別なものであること」「一般的なものと比較して、単価が2倍以上となる高付加価値化の取組」などを要件としている。
今回のディナーは、過去に一般イベントが開催されたことのない松本城で、9人のトップシェフが共演するとあり、価格は食事とペアリング込みで1人10万円という設定。希少な体験のせいか、2日で合計80席の定員は埋まり、そのうち約2割は海外からのゲストだった。
爽やかな秋晴れの日、日没の17時に地元の奏者による雅楽が響き渡ると、その夜が幕を開けた。まずは、城を象徴する「黒門」の前でアペリティフタイム。バカラのグラスに注がれたシャンパーニュとともにいただく3種のカナッペは、京都、神戸、沖縄で腕をふるう3人のシェフの味を生かしながらも、秋の信州を感じさせるものだ。