食&酒

2023.11.24 13:30

9人のシェフが国宝松本城に集結 二夜限りの特別な宴の狙い

ほどなくして、ライトアップした天守閣を望むディナーテーブルへ。夕暮れの城内に現れた会場は、非日常を絵に描いたように幻想的だ。主役である「松本城」との対話を楽しむためには格好のセッティングだったが、この貴重な体験を共有するゲスト同士が対話できるロングテーブルや円卓もよかったかもしれない。

料理は、先のアペリティフも含めた全9品のコース。9人のシェフが連携して作り上げるにあたっては、ルレ・エ・シャトーの日本支部シェフ代表である金沢・銭屋の髙木慎一朗氏がリーダーとなり、ホストである扉グループの統括総料理長 田邉真宏氏とともに、流れやボリュームなどの全体監修を担った。

「トップ同士の連携におけるリーダーシップとは、バランサーとなること。同じ食材がかぶらないよう、コースとしてより良いものになるよう調整し、私自身は、全員のメニューが出揃ってから決めました」と話す髙木シェフは、実は今回が初の松本滞在。コースでは、長野の名産のひとつ「佐久鯉」のあらいをちり酢ソースとともに提供した。
大阪「柏屋」松尾英明シェフによる碗物。フレンチではあるけれど碗物はいれると決めていたという(筆者撮影)

大阪「柏屋」松尾英明シェフによる碗物。(筆者撮影)


唯一海外から参加したオーベルジュ バスクのセドリック・ベシャドシェフは、マグロを使うバスク地方の伝統料理「マルミタコ」に醤油を取り入れた。自身のルーツでは発酵食品にあまり馴染みがないというなか、15年ぶりの来日で「松本で発酵を学び、国に戻ってからどうやって取り入れようかと考える機会になった」という。

デスティネーション・レストランの役割

このディナーは、ルレ・エ・シャトーが持続可能な食品消費を促進することを目的に2016年から実施している「Food For Change」の一環でもある。昨今ますます注目される“食のサステナビリティ”に関して、田邉シェフは次のように語る。

「扉グループで25年以上、地域に根ざすアプローチをしてきました。価値は人間がつけたもので、生産物という意味では、人参も伊勢海老も変わらない。どれも生産者がいなくては手にできないものです。次の世代に枯渇した環境を残さないように、料理人もできることをやっていかなければならない」

これに重ねるように、髙木シェフは、都心ではない、地域にある“デスティネーション・レストラン”ならではの役割を強調する。

「今回は松本が舞台で、僕の店は金沢、セドリックの店はバスクにあります。こうした店では、そこでしか食べられないものを用意する義務がある。土地の魅力的な食材をどう使うか。それは、その食材がどう維持されるべきかに直結します。生きていくのに必要なのは、コンビニ弁当ではないですよね? 食や旅は、人生の喜びであり、楽しみです。つまりサステナビリティは“生物学的な保存”のためだけでなく、人間にとって本質的に必要なものです」
9人のシェフと扉ボールディングスの齊藤忠政オーナー。ほか合計80名のスタッフでイベントを作り上げた(主催者提供)

9人のシェフと扉ボールディングスの齊藤忠政オーナー。ほか合計80名のスタッフでイベントを作り上げた(撮影=ナタリー・カンタクシーノ)

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文=鈴木奈央

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