出資先企業間の衝突と利害関係の相反
ボサ、シェン、シンは全員、それぞれインタビューで、地政学的緊張が会社分割を決定づけたとする見方を否定した。それよりも、拡大を続けるポートフォリオの間で確執が生じていることが大きな要因だった、と声を揃える。実際、セコイア・インドの出資先企業が、米国でストライプと、中国ではエアーウォレックスと競合していた例もある。このように、中国やインドの事業がそれぞれの国内市場を超えてグローバルに成長する可能性が高い。加えてリモートワークが、地理的な境界線を曖昧にしている。ボサは、最近あったセコイア・キャピタルの出資先企業からの苦情を引き合いに出した。セコイア・インドの出資先が、「(自社こそが)セコイアのお墨付きだ」と、取引先候補に伝えていたのだ。「ややこしいですよね?セコイアお墨付きの会社からテクノロジーを購入しようとしているのに、それが2社もあると言われれば、顧客は混乱してしまいます」(ボサ)
「フラストレーションを感じるのはお互いさま」だと、シンは言う。米国のとある“ユニコーン(評価額が10億ドル以上の未公開企業)”がセコイア・キャピタルに対し、セコイア・インドの投資先が将来的に競合相手になりかねないと訴えたという。だが、セコイア・インドが出資したのはその1年以上も前のことだったそうだ。その後、セコイア・インドは清算を済ませた。ところが、件の米国ユニコーンが競合する製品を発表することはなかった。人工知能(AI)が急激な進化を遂げている今、同様の衝突が起こりかねないとシンは危惧する。
「AI創業者間の軋轢のために自らの地域の有望企業とのかかわりを制限され、投資できないようなことがあれば、やっていられません」(シン)
各ファンド間には、別の意味でも距離が生まれていた。10年以上にわたり、LPを一堂に集めて3つすべての地域の新しいファンドについて説明してきたにもかかわらず、セコイア・インドとセコイア・チャイナの直近のファンド(それぞれ28.5億ドルと90億ドル)の調達は独自に行われた(シェンによると、これらの資金の一部は米国組織からのものだが、大半は「外貨」で、地元中国からの出資はゼロである)。セコイア・キャピタルは1月に1億9500万ドルのシード・ファンドを発表するなど初期投資を強化してきた。「紅杉(ホンシャン)」として生まれ変わるセコイア・チャイナは、このところインフラなEthan Pinesどテクノロジー以外への投資と共に、ヘッジファンドによる上場企業への投資を優先的に進めている。