経営・戦略

2023.11.28 14:00

セコイア・キャピタルの分社化を加速させた「対立」と「AI競争」

Forbes JAPAN編集部
セコイア・キャピタルは、創業当初から各地域のファンドを独立した存在とみなし、ディールフローやポートフォリオに関する意思決定も地域ごとで進めてきた。ある地域のパートナーが別の地域の見込み案件を目にすることはない一方で、コンプライアンスや資金調達、投資家向け広報活動、基盤インフラ、LP向けのオンライン・ポータルなどバックオフィス機能は共有してきた。複数の地域ファンドで投資家が重複することもあれば、パートナーが個人的に別地域のファンドに投資することもある。それでも、投資家向け広報活動は現地の状況に沿った内容となり、各ファンドが独自のソフトウェアを導入するなど、地域ごとに異なる道をたどり始めていた。

今後は、分割後の新会社が独自のインフラを整備し、パートナーたちが互いのファンドに投資することもない。地域ファンド間の利益分配とバックオフィス機能の共有はすべて、12月31日までに終了する。

数十年にわたりベンチャー投資業界の中心でありながら、近年の報道は必ずしもセコイア・キャピタルにとって好意的なものではなかった。欧米事業は、イーロン・マスクに買収されたツイッター(現X)や、経営破綻に至った暗号通貨取引所FTXに投資したことの正当性を問われている。しかも、22年2月に米国ファンドがこれまでと異なる資金調達モデルに移行したことが市場の反発を招いた。

いつでも自由に換金することができるオープンエンド型の大規模なファンド「セコイア・キャピタル・ファンド」を設立し、より長い運用期間にわたり同ファンド経由で資金を出し入れできるようにしたのだ。3月には、1度に限り資金引き揚げの機会がLPに与えられたと、米メディア「The Information(ザ・インフォメーション)」が伝えたところ、セコイアはこれを認めた(関係筋によると、市場の変化を受け、資金へのアクセスが必要な外部出資者を安心させるためである)。届け出によると、米国ファンドの資産は今年初旬の時点で130億ドル超だった。

一方、中国でのビジネスは、米中間を筆頭に地域をまたいで国同士の地政学的関係が冷え込んでいる間も、成長を続けてきた。セコイア・チャイナはバイトダンスの大株主であり、5月にForbesが報じたところでは、時価数百億ドルにもなる10%の持ち分を保有している。セコイア・キャピタルも、世界各地の新興企業投資のために近年立ち上げたグロースファンドを通じてバイトダンスの株式を保有する。

同社傘下のTikTokは近年、米国議会で論争の的となり、安全保障面への影響について当局の調査対象となっている。20年には、セコイア・キャピタルのダグ・レオーネが、バイトダンスのために当時のトランプ政権に陳情を行った。同ファンドは昨年、対策の一環でワシントンD.C.に本拠を置くコンサルティング企業を雇ったとされている。シェンは現在もバイトダンスの取締役を務めており、同件についてのコメントを避けた。ただ一般論として、セコイアの分割によって中国企業が香港などでの上場において有利になるとの見方を否定した。
紅杉(旧セコイア・ チャイナ)のニール・シェン(VCG / Getty Images)

紅杉(旧セコイア・チャイナ)のニール・シェン(VCG / Getty Images)

「出資先企業はいずれも、創業間もない企業ではありません。大株主だからという理由だけで、企業の新規株式公開(IPO)に強く意見できるなどとは思っていません」(シェン)
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文=アレックス・コンラッド 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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