セコイア・キャピタルの分社化を加速させた「対立」と「AI競争」

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大きな話題を呼んだ、名門VCセコイア・キャピタルによる分社化の発表。その背景には、ベンチャー投資の成熟と、新しい技術の台頭があった。

地政学的な緊張もあり、米国、中国、インドの事業を分社化するというセコイア・キャピタルの決断は一見、政治性を感じさせる。だが各社トップの発言を読み解くと、決断の背景がもう少し複雑だったことが窺える。分社化が不可避だった理由とは。


世界で最も名高いグローバルなベンチャー投資会社の一つ、「Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)」が自社を分割しようとしている。同社は米国事業のほか、中国事業(セコイア・チャイナ)とインド・東南アジア事業(セコイア・キャピタル・インディア & 東南アジア:以下セコイア・インド)を抱えている。

セコイア・キャピタルはエアービーアンドビーやワッツアップへの出資で成功を収め、セコイア・チャイナとセコイア・インドはTikTokの親会社「ByteDance(バイトダンス)」や、インドネシアのスーパーアプリ「GoTo(ゴートゥ)」などのユニコーンに出資してきた。それが今、3つの完全に独立した企業へと分割を進めている。

3社をそれぞれ率いるロエロフ・ボサ(米国)、ニール・シェン(中国)、シャイレンドラ・シン(インド)は2023年6月6日、リミテッド・パートナー(LP)に宛てた署名入りの書簡で分割の予定を認めた。分割の結果、欧米はセコイア・キャピタル、中国は「紅杉(ホンシャン)」、インドと東南アジアは「Peak XV Partners(ピーク15・パートナーズ)」が担当し、遅くとも24年3月までに分割手続きを完了する予定だ。

3人はそれぞれForbesとの個別インタビューに応じ、「セコイアのグローバル事業分割については以前から議論を重ねていたが、この数カ月で加速した」と述べた。要因は、各ファンドによる出資先の間での利害相反、戦略の多様化に伴うブランド運営の混乱に加え、中央集権的構造での規制遵守が困難になっている点などだ。地政学的な対立もあると認めたものの、大きな要因ではないと装ってみせた。
セコイア・キャピタルを率いるロエロフ・ ボサ(Stefan Wermuth / Bloomberg / Getty Images)

セコイア・キャピタルを率いるロエロフ・ ボサ(Stefan Wermuth / Bloomberg / Getty Images)

「負けを認めて撤退するわけではありません。発展の可能性を秘めた完全な別会社を3つ手にしたという意味では、むしろ勝利といえるでしょう」(ボサ)

1972年に300万ドルを運用するファンドとして立ち上げられたセコイア・キャピタルは、その後の数十年間に、アップル、シスコシステムズ、グーグル、エヌビディアといった企業への初期投資でハイテクの本拠地“シリコンバレー”に欠かせない存在となり、資産は数百億ドルへと膨らんだ。2000年代半ばには海外にも進出。中国とインドで現地の投資パートナーを得てファンドを立ち上げた。そしてセコイア・チャイナとセコイア・インドは、それぞれの地域を代表する大手へと発展した。
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文=アレックス・コンラッド 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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