VC

2023.11.24 08:30

米トップVCに聞く「10年後の理想」 日本スタートアップのポテンシャル解放へ

中村幸一郎氏

──クランダムが成功した理由をどう分析していますか。
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成功の理由のひとつとして、フレデリックとステファンの2人がヨーロッパでのVCの経験が全くなかったことも大きかったと思います。彼らはアメリカ系のコンサルティングファームなどの経験を経てビジネススクールを経由し、スウェーデンの大学年金ファンドから支援を受けてカウフマン・フェローズ・プログラムに参加していました。そこで叩き込まれたグローバルの手法をそのままファンド設立に生かし、結果的に後発ファンドも彼らを追従したことで、ヨーロッパにグローバルスタンダードが広がったといえそうです。

一方、今の日本は起業のための雰囲気は醸成されつつありますが、グローバルなVCファンドが投資しにくい構造的な問題は依然として横たわっている状態です。私たちが以前に投資検討した企業を例に挙げると、比較的初期の時期に過大な資金調達をしてしまうことで本来マネージメントがもつべき株式が過小であっていたり、検討するラウンドに継続支援してくれる投資家がいなかったりと資金調達のデザインという構造的な問題がいくつか見受けられました。この点を指摘すると、起業家も既存投資家の方々もそのような認識、理解をしていない状況でした。

ほかにも、契約に独自条項を入れるなど、日本ならではの商習慣もあります。どうしても見慣れない契約条件が入っているとその後の投資参加を検討する投資家の検討ハードルは上がります。グローバルスタンダードから外れてしまう契約体系は世界から投資を受け入れるための障害になりかねず、それを気にしない投資家に頼らざるを得なくなり、結果として大きな規模に成長する可能性を小さくしてしまいます。もちろん、グローバルな契約体系に合わせるコストは生じますし、選択としてドメスティックな契約を採用するのは全てのケースで悪いわけではありませんが、もし海外の投資家からの調達も選択肢に入れたいのであれば必要な知識はありますし、望まない事態は回避できることから、私たちが知識を与えることでグローバルスタンダードが日本にも浸透し、選択肢を増やす一助になればと考えています。
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──知識はどのように広めていきますか。

イノベーションの裾野を広げることも重要ですが、多くの場合、数を増やせば確率統計的に成功企業が生まれる訳ではありません。成功企業を増やすためには、見込みがあるところに一点集中的に知識を与え、上から引っ張り上げる試みが重要です。Spotifyのような企業を生み出す起業家だけでなく、起業家をサポートする投資家や、VCに投資をするLP、大企業、政府関係者などエコシステム全体のリーダーとなる専門人材が必要になります。

そのような専門人材を10人育てられたら、彼らが次の20人を支える基盤をつくってくれて、おそらく10年ほどで、50人がインフラやコンテンツや事例を作り拡大して教えられる仕組みができると考えています。そのように地道に時間をかけて専門人材を支援していく仕組みをつくって、ヨーロッパのように高い確率でグローバルインフラになるような企業を安定的に10社ほど輩出できるはずです。

起業家、投資家、VCのいずれの立場でも正しい知識は必須になるため、各カテゴリーからリーダーになるような人材を選ぶ必要があります。一方、イノベーションや有望な人材はどこから生まれるかもわからないため、試したいことも多くあります。
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