サイエンス

2023.11.15 14:00

ギザの大スフィンクス、建造に「風による侵食」がひと役買っていた可能性

ギザの大スフィンクス(Shutterstock.com)

ギザの大スフィンクスには今も多くの謎に満ちている。人間の頭と獅子の体を持つその巨大な像は、紀元前2500年ごろ、第4王朝カフラーの命によりピラミッドとともに作られた。

しかし、古代エジプト人がこのスフィンクスを作り始めたとき、地形はどうなっていたのか? また、当時の自然環境は、建造にどう関わっていたのだろうか?

こうした疑問を解決すべく、ニューヨーク大学の科学者チームは、スフィンクスが建造された当時の気候条件を再現し、世界で最も有名なこの石像が作られた際、風が岩石層に対してどのように影響をおよぼしたのかを調べた。

「私たちの発見は、スフィンクスのような岩石層が侵食によってどのように形成されるのかという『起源』の可能性を提示するものです」とニューヨーク大学クーラント数理科学研究所准教授で本論文の上席著者であるライフ・リストロフは語る。

リストロフとニューヨーク大学応用数学研究室の同僚らは、ギザ高原を覆う硬い堆積層と柔らかい堆積層が連続したモカッタム層群を模倣して、軟らかい粘土の中に硬く侵食性の低い物質を埋め込んだ山を作った。

次に風を再現するために、流れの速い水をこれらの山に当ててたところ、削られて形を変え、最終的にはスフィンクスに似た地層ができ上がった。

「より硬質な侵食されにくい部分を水流が避けたことで、予想外の形状が現れました」とリストロフは説明する。

より硬く耐久性のある材料が獅子の「頭部」に、下部をえぐられた「首」に、前部の地上に並べられた「前足」にそしてアーチを描く「背中」となるなど、水流が柔らかい部分がすみやかに取り除かれたことでスフィンクスの特徴が現れた。

実験室のスフィンクス。何のかたちでもなかった盛り土が向かってくる風によって形状を変えた(DOI: https://doi.org/10.1103/APS.DFD.2022.GFM.P0030)

実験室の仮想スフィンクス。何の形でもなかった盛り土が向かってくる風を再現した水の流れによって形状を変えた(DOI: https://doi.org/10.1103/APS.DFD.2022.GFM.P0030)

「私たちの実験結果は、スフィンクスのような地層が侵食によってどのように形成されるか単純な単純な起源論を提供するものです」とリストロフは結論づけた。「動物が座ったり横たわったりしているように見えるヤルダン地形が存在しているという事実が、私たちの結論を支持しています」

ヤルダンとは、中央アジアのチュルク系言語で「険しい土手」という意味で、主に砂漠地帯で見られる特徴的な地形だ。風が塵や鉱物粒子を吹き上げ、あらゆる岩石層を「サンドブラスト」することで形成される。風の強さと吹いてくる方向によって、時間の経過とともに奇妙な形状を生み出し、さまざまな物体や人間に似たものもある。

中国敦煌ヤルダン国家地質公園に見られる岩石層(Dcpeets via Wikimedia, CC BY-SA 4.0 DEED)

中国敦煌ヤルダン国家地質公園に見られる岩石層(Dcpeets via Wikimedia, CC BY-SA 4.0 DEED)

流動実験とは別に、同研究はスフィンクスが最も多く吹く風向きに面していることも、起源がヤルダンにあるという説を支持していると指摘している。

論文「Sculpting the Sphinx(スフィンクスを彫刻する)」は、学術誌、Physical Review Fluids(2023)で掲載に向けて受理された。追加の資料とインタビューはニューヨーク大学から提供された。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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