アート

2023.11.13 13:30

アートとビジネスの近接、「文化資本経営」がいよいよ動き出す

これらはいずれも、アーティストやキュレーターなどの個人の創造性が発揮され、また次々と生成されていく、創造の泉とでも呼べそうな場づくりを志向しています。企業がアートに求める最たるものがその創造性だとするならば、予定調和に陥らず、その可能性を最大限に受け止める覚悟をもってこそ、初めてアートの無限の真価を享受できると言えるでしょう。

文化による社会変革

今やこうして、国、自治体、大学、美術館、企業が領域の別なくアートに期待を寄せ、その可能性が切り拓かれようとしています。アートに備わる潜在的な価値が認められたとき、もはやアートはビジネスの対極ではなく、社会や企業活動の各所にメディウムとなって溶け込み、次の未来社会を描く糧となります。

こうした芸術文化の価値を誰よりも理解し、数々の著作や講演を通して世に訴えかけ続けたのは、今年8月に逝去した資生堂名誉会長の故・福原義春氏でした。

資生堂の中興の祖であり文化人としても知られた同氏は、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」に続く第四の要素として、「文化」を企業経営の軸に据える「文化資本経営」を1990年代後半より提唱。企業経営のみならず、より良い社会を築くための原理として芸術文化を見ていました。

東京都の文化政策のもとで芸術文化の創造と発信を推進する「アーツカウンシル東京」の2012年の発足時、経済人でありながら東京芸術文化評議会の会長を務めた福原氏は「もはや経済価値の積み上げだけでは世界は動きません。誰もがそのことに気がついています。今こそ、歴史や人間の知恵に裏づけられた文化力が必要なのです」と述べ、「文化による社会変革」を夢見ました。

10年の歳月を経た今日、いよいよ時代が動こうとしています。


深井厚志◎編集者・コンサルタント。1985年生まれ。英国立レディング大学美術史&建築史学科卒業。美術専門誌『月刊ギャラリー』、『美術手帖』編集部、公益財団法人現代芸術振興財団を経て、井上ビジネスコンサルタンツに所属。多方面でアートと社会経済をつなぐ仕事を数多く手がける。

文=深井厚志

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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